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第九章・5

「例えば、今だ。ありがとう、の後に続く返事は、無言の方がいい時もある」 「哲哉さま」  ソファで、二人はキスをした。  少しワインの味のする、キスを。 (ああ、僕のぼせちゃいそう)  ワインの芳香に。  哲哉の言葉に。  無理に返事をしなくてもいい、ということは、それだけ玲衣が哲哉に近づけたようで嬉しかった。 「ん、ぅん。……はっ、あぅ……」  キスをたっぷり味わう前に、玲衣は哲哉にひょいと抱えられた。 「んぁ。哲哉さま?」 「寝室へ」  哲哉の逞しい首に腕を回し、玲衣は甘えた気分になった。 (哲哉さまに、こうやって抱き上げられるの、好き)  愛してもらえている、という実感が湧いてくるのだ。  発情してからの玲衣は、以前と比べて愛というものを意識するようになっていた。  例えば、哲哉は玲衣がピルを飲んでいなかったり、安全日でなかったりすると、必ずスキンを着けてくれる。 『18歳で妊娠は、さすがに早すぎるだろうからな』  そんな哲哉の気遣いにも、玲衣は愛情を感じ取っていた。

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