64 / 87
第九章・8
体を拭き清め、パジャマを着せてやった玲衣の隣に、哲哉は横になっていた。
「好きだ、玲衣」
眠っている玲衣から返事があるはずもなく、哲哉の声は部屋の壁に染み入るだけだ。
だが、返ってくる言葉は解る。
『僕も哲哉さまが、好きです』
いつも、そう返してくれる。
笑顔で。
「いや、もうすでに、好きでは収まり切れないところまで来ているようだ」
今度、こう言ってみようか。
「愛してるよ、玲衣」
一人で、頬を染めてしまう自分が、ここにいる。
「愛は、まだ重いか?」
だが、最近特に思うのだ。
このまま玲衣が、ずっと傍にいてくれたら。
四季折々を、時の流れを、共有できたらどんなにいいか。
結婚。
この言葉を思いつき、哲哉は耳を熱くした。
「いや、そんな。本気か?」
自問自答が、続く。
「寝付けなくなってしまったな」
それでも、玲衣が横にいる。
幸せそうに、休んでいる。
そう考えただけで、哲哉の胸も温かくなった。
ともだちにシェアしよう!