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第十章・2
「玲衣、その恰好は?」
「哲哉さま、そのスタイルは?」
待ち合わせの場所で、二人が同時に発した言葉だった。
哲哉は、浴衣姿。
玲衣は、ポロシャツ。
「玲衣、花火大会だぞ。浴衣を着ずに、どうする?」
「哲哉さまこそ。浴衣でお仕事なさったんですか?」
聞けば、浴衣はバッグの中に入れておいて、ホテルで着替えたという。
「ごめんなさい、哲哉さま。僕、そこまで気が回らなくて」
「いや、言わなかった私も悪いし、君に浴衣を用意しなかった私も悪い」
悪いのは、私だ。
そう微笑んで、哲哉は玲衣の肩を抱いた。
「花火大会まで、まだ時間がある。今から浴衣を買いに行こう」
「ありがとうございます、哲哉さま」
「そういえば、池崎は?」
「車で送ってくださいました。駐車場で、花火が終わるまで待っていてくれるそうです」
「そうか」
哲哉は下駄を鳴らしながら、玲衣を老舗百貨店の呉服売り場へといざなった。
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