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第十章・4

「白石 玲衣さん、ですね?」 「はい。そうですけど」  男は、眉をひそめて大仰に伝えて来た。 「大変です。お連れ様が、突然に倒れられました!」 「哲哉さまが!?」 「脳梗塞の疑いがあり、たった今病院へ搬送されて!」  そんな。  さっきまで、あんなにお元気だったのに! 「救急車の行き先は、解っています。私が、車でお送りします」 「お願いします!」  ああ、哲哉さま。  どうか、どうか無事で!  男に腕を引かれるようにして、玲衣は慌てて呉服店を後にした。  暗い百貨店の屋内駐車場に上がり、男はワゴン車を開けた。 「後ろに、乗ってください」 「はい」  後部座席に乗り込んだ玲衣は、途端に腕を後ろにひねられた。 「痛い!」 「大人しくしててね、玲衣くん」  後ろ手に手錠を掛けられ、口にはガムテープが貼られた。  手慣れた素早さだ。 (この人は、一体!?)  混乱する玲衣に、男は絶望的なことを教えて来た。 「乱暴にして、ごめんね。俺は、君のお父さんに雇われた探偵さ」 (父さん!?)  それきりで、男は運転席へ移動した。  だが、その先に何が待つかは、それだけ聞けば充分だった。

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