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第十章・7

 玲衣は、後ろ手に手錠をかけられ、口にはガムテープを貼られたままベッドに転がされていた。 「よくやってくれた」  傍らでは、父が探偵に紙幣を渡している。 「では、私はこれで」  男は出ていき、部屋には親子二人が残された。 「しばらく見ないうちに、艶っぽくなりやがって」  どさり、と父は玲衣の傍に腰掛け、その髪をさらりと撫でた。  その仕草に、怖気がくる。  玲衣はもがいて、逃れようと必死になった。 「逃げるなよ。また二人で、仲良くやっていこうぜ」 「んうぅ!」  目に涙をにじませながら、玲衣はうめいた。 「久しぶりに、一発ヤッとくか。なぁ?」  父親は、手加減なしに玲衣の口からガムテープを引きはがした。  言葉が自由になった玲衣は、真っ先に叫んだ。 「嫌だ!」 「何ぃ?」 「僕はもう、父さんとは一緒に暮らしません。触らないで!」 「生意気、言いやがって!」  玲衣は、頬を激しくぶたれた。  それでも、声を殺して耐えた。 「僕は、父さんの言いなりにはなりません!」  哲哉との愛で培った力強さが、玲衣に宿っていた。

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