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第十二章・2
聞いての通りだ、と哲哉は傍らにいた玲衣に向き直った。
「私の過去の悪事が、逃げ出した少年たちを不幸にしているかと思っていた」
しかし、結果は逆だった。
池崎の言った通り、哲哉を反面教師にして、新しい人生を歩んでいる。
彼らもまた、強い心を育んでいたのだ。
「僕も、安心しました」
哲哉は、大きく息を吐いた。
「ホッとしたよ。本当に、良かった」
微笑む、哲哉。
玲衣は、そんな哲哉の笑顔が好きだった。
以前にもまして、よく笑うようになった哲哉。
こうしてまた、彼の笑顔を見ることができたのだ。
こんなに嬉しいことは、なかった。
「今から、どうなさいますか。お仕事を?」
「いや。久々に、アトリエに行こう」
「はい」
絵を描くのは、久しぶりだ。
二人で連れ立って、広いアトリエに入った。
天井の高い、大きな部屋。
天窓には、ステンドグラスが入っている。
玲衣は、さらさらと衣服を脱ぐと、その漏れ射る光に向かって腕を伸ばした。
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