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第十二章・4

 まだ素裸の玲衣は、椅子から降りて彼に歩み寄る哲哉の元へ小走りした。 「哲哉さま!」 「おいおい。どうしたんだ?」  胸に飛び込んでくる可愛い小鳥を、哲哉はその腕で抱きとめた。 「体が冷えました。温めてください」 「いいとも」  哲哉は、そっと床に腰を下ろすと、玲衣を抱きしめた。  その肩を撫で、頬を摺り寄せた。 「どうしたのかな。今日の玲衣は、甘えん坊だ」 「それはきっと、僕がおねだりをしたいからです」 「ほう?」  これは、珍しい。  無欲な玲衣が、おねだりとは。 「何でも言いなさい。買ってやるから」 「お金では、買えないものなんです」  そう言うと、玲衣は哲哉を見上げた。 「哲哉さま。僕、僕……」  少しはにかんだ後、彼は小さな声で口にした。 「僕、赤ちゃんが欲しいんです。哲哉さんの」 「……!」  予想外のことに、哲哉は耳まで赤くして照れた。 「い、いや、その。まだ、早くはないか?」 「そうかもしれません。でも」  正式に婚約者となった今、玲衣は未来を見るようになっていた。

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