83 / 87

第十二章・5

「私の子を、産んでくれるのか?」 「産んでも……、いいですか?」  もちろんだ、と哲哉は微笑もうとした。  だが、視界がにじんでくる。  涙が、湧いてくる。 (この私が、父親に)  それは、暗がりの人生をさまよっていた頃には、思いもしなかった希望だった。  玲衣によって差し込んできた光は、まぶしい輝きとなって哲哉を照らした。 「哲哉さま?」 「すまない。あまりに、嬉しくてね」  すう、と大きく息を吸って、哲哉は明るく振舞った。 「育てよう、子どもを。君と私とで、幸せを育もう」 「ありがとうございます、哲哉さま!」  ただ、と哲哉は玲衣の頬に優しく手のひらで触れた。 「それには一つ、条件がある」 「何でしょう」 「私のことは今後、『哲哉さま』ではなく、『哲哉さん』と呼んで欲しい」 「え!?」  そう。  私と玲衣は、対等なパートナーになるのだ。  哲哉さま、だなんて他人行儀な物言いは、不自由だ。

ともだちにシェアしよう!