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第十二章・7
玲衣が小さなくしゃみをし、哲哉は我に返った。
「すまない。君はまだ、裸のままだったな」
「哲哉さんが温めてくれているから、平気ですよ」
それでも哲哉は心配し、玲衣に着衣を勧めた。
「風邪をひいたら、大変だ」
まるで、もう赤ん坊ができたかのような勢いだ。
「体をいたわって。そうだ、毎日ドクターに診てもらうようにしよう」
「そこまでしなくても、大丈夫です」
笑いながら服を着た玲衣は、改めて哲哉の前に進んだ。
「これからも、よろしくお願いします。哲哉さん」
「こちらこそ。世話になるよ、玲衣」
二人で笑い合いながら、アトリエを出た。
するとそこには、池崎が控えていた。
「池崎。何かあったのか?」
「何もないので、ここにこうしております」
哲哉は、屋敷の使用人数を大幅に増員した。
今までより細かに、屋内外を管理することにしたのだ。
明るく、風通しの良い住処に。
そう考えての、ことだった。
「今までわたくしがやっていた仕事が、他の人間に取られてしまいました」
「これまでの分、少しゆっくりしてくれ」
そう、哲哉は池崎をいたわった。
出来の悪い主人のために、身を粉にして働いてくれていた池崎。
そんな彼を、思いやってのことだった。
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