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第7話

起きると、腕枕には寛人はいなかった。 「あ、起きましたか?先生」 ふと、声のする方へ視線を向けると私服姿でエプロンをつけて、窓ガラスを拭く寛人が笑顔。 ....思考が追いつかない。 「猛さんは自宅に戻られました。シャワー浴びて来ては如何ですか?先生。お昼ご飯の支度、出来てますから」 布団の上で暫く、エプロン姿で笑顔の寛人を見て、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。 「....あー、猛、なんか言ってた?」 「いえ、特になにも。自宅でゆっくり寝たい、て凄く眠たそうでした。根を詰めてお仕事していらっしゃったようで」 「....まあ、久しぶりに休みあげたしな。てか、お前は自宅、戻んないの、寛人」 また、にこっと寛人が微笑んだ。 「良かったら傍にいさせてください。先生の邪魔はしませんから」 そう告げると、せっせと頼んでもいないのに、部屋の掃除を始める、寛人。 助かるっちゃ、確かに助かる、が、なんだ、この新婚の新妻みたいな...。 とりあえず、シャワー浴びて頭スッキリさせよう、と俺は浴室に向かった。 首からタオルを掛け、浴室から出ると、 「先生。お食事出来てますよ」 エプロンは取り、パーカーにデニム姿の寛人がキッチン近くのダイニングで微笑んだ。 ついでに嗅覚をくすぐる、いい匂い。 「お口に合うといいんですけど、すぐにお味噌汁温めますから、座ってください、先生」 言われるがまま、食事が並ぶテーブルの椅子を引く。 「チキンの大根おろしと大葉を使った和風ソテーにかぼちゃの煮物、ほうれん草と油揚げのお浸し、お味噌汁は豆腐に葱、わかめにしてみました。嫌いな食材、尋ねたかったんですが、先生、ぐっすり眠っていらっしゃったので....」 「や、特に嫌いなもんは無いけど....美味そうだな」 久しぶりにまともな、しかも手作りの手の込んだ食事を見た気がする。 「お代わりもありますから、良かったら」 「サンキュ、じゃ、いただきます」 寛人は俺が箸をつけるのを見守っている。 「あんま見られると食いにくいんだが...」 「あ、すみません。じゃ、僕もいただきます!」

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