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第3話 一度目のキス

先程までオレが昼寝しようと思っていたベンチに黒髪は座っていた。オレはその隣に座った。 「ーーー・・・・・・あー、さっきはありがとな。」 一応庇ってくれたらしいから、礼を言う。 「ーーー・・・・・・別に。オレたちのことに巻き込んだし。」 「お前って、入学式で新入生代表だったやつだろ?」 「ーーー・・・・・・一宮那月。」 そう言って振り向いた那月は何回か殴られたのか頬は赤く少し腫れているが、よく見れば切れ長の目で睫毛は長くて、整った顔立ちをしている。 「那月って、あーゆう男が好きなんだ?」 真面目そうなコイツには似つかわしくない派手な男。接点とかあるのか?と思うくらい真逆な印象。 「ーーー・・・・・・名前。」 「名前?あー、雪音。月嶋雪音。」 「い、いや違くてーーー・・・・・・いきなり名前で呼ぶから、」 「あー、癖で。悪い。」 「別にいいけど、びっくりしただけ。」 何かコイツと話してると調子狂うーーー・・・・・・。 「さっきの、良介はオレの高校のときの先輩でオレの初恋の人だったんだ。高2のときに付き合うことになって、大学入って一緒に暮らし始めたのにーーー・・・・・・終わっちゃった。」 秋風がさぁぁぁと吹き、俯いていた顔を上げ、オレの方を見た那月の顔が何とも言い難い表情をしていてーーー・・・・・・。 ーーー・・・・・・ちゅ。 思わず那月の長めの前髪を分けてキスをしていた。 オレは一体、何をしているんだ? しばしの間を先に破ったのは那月。 「あのーーー・・・・・・何で、キス、」 「わりぃ。なんつーか、魔が刺した。」 ほぼ無意識だったし、理由なんてわからない。魔が刺したとしか言いようがない。 「ーーー・・・・・・雪音は誰とでもこんな簡単にするの?」 「はっ、何その質問。お前、オレのこと知らねえの?」 意味がわからないって顔だな。 「さっきの灰田も言ってただろ。男女共に気に入った奴とは誰とでも寝る、特定の恋人は作らない。オレですら知ってる噂。まあ、あながち間違っちゃいないけどな。」 「だから、さっきのキスだって特に意味なんてねえよ。」 「ーーー・・・・・・そっか。」 ちょうどその時、2限が終わる鐘がなった。 「じゃあ、オレ行くね。雪音、さっきはありがとう。」 落ち込んで泣きそうだったくせに、ふわっと笑う。 ーーー・・・・・・マジで調子狂う。 「あのさ、アイツの家出るんだろ。住むとこねえなら、オレんとこ来る?」 オレは何でコイツを引き止めたのかも、自分の家に来るか、とか聞いてんのかもさっぱりわからなかった。 ただ、身体と口が勝手に動いていただけーーー・・・・・・。 那月は驚いていたが、次に住むところが見つかるまでと笑った。 それから、オレたちは一緒に暮らしている。

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