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第4話 結婚式
式は、ローズブレイド公爵家領にある、一番立派な教会で執り行われた。
正装したレナードと、同じく正装姿で、純白のヴェールで顔を隠したオデルが、杖を付いたオデルの父親により引き合わされると、司祭の前で誓いの言葉を述べる。列席者は、長年、ローズブレイド公爵家と親しく交流があった貴族らのほか、イングラム男爵家側の招待客の中には、ベータであるらしき財界人や、新聞記者の顔さえ見えた。
滞りなく指輪が交換され、新郎の手によりオデルが被っているヴェールが引き上げられる。
ずっと俯いていたオデルが視線を上げると、レナードの姿が、今日、初めてはっきりと視界に映った。
とてもきれいな、誠実そうな顔立ち。
レナードは、少し泣きそうにも見えた。
司祭が促すと、レナードは躊躇いがちに、だが、周囲に見せつけるようにオデルを引き寄せた。全ての動作が緩慢に感じられる中、オデルは至近距離でレナードの鳶色の眸とかち合ってしまう。
彫りの深い二重は、愛しげにまっすぐオデルを見つめていた。口元にはまろやかな笑みが浮かんでいるが、どこか不安げに引き結ばれてもいる。そのどれもが端正なことに、オデルは初めて気がついた。
(——……)
目が覚める思いだった。
本音を言えば、金のための結婚などしたくない。連れ出してくれるら、異議を申し立ててくれる者がいるなら、ともにゆく浅はかで愚かな幻想を、決して抱かなかった、といえば嘘になる。
だが、世間知らずで幸福な愚か者には、オデルはなれなかった。
父の安堵の表情と、双子の弟たちの、幸せそうな笑顔が見える。
(……この道を選んだのは、ぼくだ)
たとえ愛のない結婚だとしても、愛せないまま家族をつくることになったとしても。傾きかけたローズブレイド公爵家を救う形で手を差し伸べてくれたのは、他の誰でもない、レナードだけだった。
——だから尽くそう。
心の中で重ねた裏切り以上に、未来を歩む伴侶として。
これから先はもう、この道しかないのだと肚を括るのだ。
(さよなら……)
心の中で別離を告げるオデルの頬に、レナードのくちづけが落とされた。
唇に触れようとさえしない、挨拶のようなバード・キス。
オデルが望み、手に入れたものには名前が付かない。
それでもいい、とオデルは目を閉じた。
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