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第25話 交わる(*)

 覆いかぶさったレナードが、仰向けに横たわるオデルを庇うように、両手と両膝で身体を支え直し、見下ろした。 「きみのことが……少し、わかった気がします」 「レナー……ッ、だめ、です……っ」  慌てて制する声も聞かずに、レナードは言葉を零すオデルの唇に唇を重ねた。たおやかで熱いくちづけが降ってきて、甘く蕩けかけるが、ナイトウェアの下の包帯の感触に、現状を思い出す。 「ど、退いて、くださ、い……っ、これでは……っ」 「誘ったのはきみです」 「ちが……っ」  酷く掠れたレナードの声が甘い悦びで満ちる。が、レナードを押し返そうとオデルが両腕に力を込めると、裏切られたような表情をされた。 「違いません。きみとしたい私を、全霊で誘惑したのはきみです、オデル……ッ痛、っ……」  決闘の傷跡の幾つかが、オデルが強く押した場所と重なり、開きかけていた。レナードが顔を歪めたのを見たオデルは、必死で言い継いだ。 「だって、傷が……っ! ぼ、ぼくが、上に……っ、なり、ます、から……っ、お、教えて、ください……っ、レナード……」 「オデル……」  回復どころか消耗させ、下手をすれば傷が開いてしまうこともわかっていたが、互いに本格的な発情の初期症状が出はじめていて、おそらく薬を飲んでも、もう抑え込めないだろうことは理解できていた。しかも、レナードにキスをされたのを契機に、ふたりとも抑制不能な量のフェロモンを放出しはじめていた。 「あ、っあなた、とし、したい、です……。本当、です……っ、ですから……っ、ど、どう、すれば……っ」  おたおたと説明するオデルも、もう引き返せなかった。だから、もがくレナードをどうにか起き上がらせ、大きなクッションに背をもたれかけさせ、オデルは膝の上に乗った。 「これで、合って、いますか……? い、痛い、ところは……」  レナードの肩に、両手を置く。決闘の際に、何ヶ所か筋に近い場所をやられていたし、容赦のない斬撃だったことは、素人のオデルにさえ明白だった。強引に身体を動かそうとするレナードの、我が身を顧みない興奮に狼狽えたオデルは、おっかなびっくり主張を繰り返す。 「明日……ぼくも一緒に怒られます、から……っ。欲しい……のです、ぼくは、あなたと、その……いけない、こと、を、た、たくさん……っ」 「きみは……いや」  オデルの懇願に、レナードはふと相好を崩した。 「身体中、痛いところだらけですが、きみを諦める以上の痛みは、想像できません」  おろおろ挙動不審になったオデルに柔らかな眼差しを投げかけたレナードは、身体の位置を確認して、オデルへと両腕を伸ばした。 「話をするだけで、あなたを煽っていただなんて……気づきもしませんでした。私も大概ですね」 「す、みま、せ……」 「いいえ、自業自得です。……私も、きみと同じ気持ちです、オデル。ついては……服を脱ぐのを手伝っていただけますか? オデル」 「は、はい……っ」  レナードに両肩を引き寄せられ、密着まで拳ひとつ分の距離まで、オデルが膝でいざり寄る。ナイトウェアのボタンを外し、上衣をはだけると、包帯の白さが際立つ、傷だらけの肌が露わになった。レナードの肉体をあらためて見たオデルは、その白く引き締まった、ある種のバネを秘めた身体に見惚れると同時に、自身の内部が潤い出す変化に気づいた。 「つ、次、は……?」 「下は、私が……」  呟いたレナードは、オデルを引き寄せた両腕で下衣を見出し、屹立を取り出した。 「あ……」 「きみのものとは、少し違うかもしれませんが……」  余裕のない声で、そう前置きされたレナードの茎が露わになる。先端が鋭く張っていて、太さも長さも、オデルよりひと回りほど大きかった。しなやかで、少し色の濃い剛直は、脈打つ血管に覆われ、上に角度を保ったままだ。書物で学び、座学でも理解できているつもりだったが、これをオデルが喰むのだと思うと、ありもしない勇気が後退してゆきそうだった。 「もう少し近くに……、私の脚を跨いで……強引にはしません。きみの準備をしなければ」  レナードはオデルへ言うと、サイドテーブルの抽斗から、陶器製の小瓶を取り出した。 「手を出して。オデル」 「……?」  粘性のある、良い香りのする液体が、手を上に出したオデルの手のひらに零される。 「指先に、絡めて。そう。私も、手伝います。きみも……するのです。誘った以上、責任は取ってもらいます」 「ぁ……」  その液体は体温に反応し、温まるようにできているようで、オデルの肌が少し温い温度を感知する。レナードも指と手のひらに適量、それを取り、オデルの首筋を唇で辿りながら、シャツとスラックスにつぎ、下着も脱がされた。 「挿れますよ……? なるべく、怖がらないで」 「ぁ、は、はい……っ」  くちゅ、と水音がして、閉じているその場所を探られる。オデルも、おっかなびっくり遠慮がちな手つきだったが、レナードの指に、濡れた自身の指を重ねた。 「力、抜いて……」 「ん……」  最初は丁寧に襞の間に香油を塗り込めるように撫でているだけだったが、やがて頃合いを見計らい、指先が侵入してくる。同時に鎖骨のくぼみに、ちゅ、と甘えるようにくちづけられた。 「力まないで。痛く、ないですか?」 「ん、は、ぃ……っ」  とても羞恥心を捨てなければ、目を開けていることすらままならなかった。レナードの指関節を下腹部の閉じた場所にありありと感じる。少しずつ、慎重に進むから、違和感はあったが、内部を浅く出し入れされると、そのたびに腰から熱と快楽が湧き出て、込めたはずの力が抜けそうになる。 「オメガは濡れると言われますが、あなたのここも……」 「っ」 「綻んでいる」 「は、はぃ……っ」  認めるために羞恥心と矜持を殺す。しかし、それだけで許されることではないと、オデルは間もなく知ることになった。しばらく何かを探るような動きで壁を押していたレナードの指先が、腹側のある場所を撫でた時、ひくんっ、とオデルの下腹が反応した。 「ん……っ?」  その違和感をレナードは逃さず、オデルの反応が微かに変わった場所を丁寧に揉み込み、押しては離す動作を繰り返した。そこがまるで源泉のよに愉悦をもたらすことをオデルが自覚するのと、レナードの指が特定するのに、さほどの時差はなかった。 「反応が……変わりましたか?」 「は……ぁ、はぁ……っ、は……っぁ、そ、れ……っ!」 「これ……ですか?」 「ぁ……! だめ、だっ……ぁ、ゃぁ、っ……っそれ……っ!」  鮮やかな快楽に脳髄が発火したようになり、匂いが変わるのを、オデル自身にすら制御できなくなる。息を乱したオデルがレナードの肩に縋る頃には、先端の切れ目が先走りで潤み、後孔も濡れて糸を引く状態だった。 「……腰が揺れています、オデル……?」 「ぁ……ぁっ……! ぁっ、も、もぅ……っ! が、我慢、で、きませ……っ!」 「もう少し」 「ゃ、ぁぁっ、レ、ナード……ッ!」  香油と愛液が完全に混じりはじめる頃には、中に在るレナードの指は少し深く挿入され、自在に曲げ伸ばしされ、本数も増えていた。それらが交差するたびに新たな快楽が更新されてゆくのを、オデルが息を乱して訴えはじめると、レナードはやがて指を抜いてしまった。 「ぁ、んっ……! っはぁ……っ」  ゆっくり引き抜かれた指から、体液と香油の混じった甘い匂いをさせた液体がシーツに滴り落ちる。身体の急激な変化への戸惑いと羞恥に塗れながら、オデルはそれでも偽るまいと、レナードの背中に腕を回した。 「も、ぅ……っ」 「きみが、欲しいです……オデル」  ふたりの言葉が重なり、レナードが次の段階へ進むべく囁いた。 「私を食んで、腰を下ろせますか?」 「ぁ……」  つまり、自分で中に挿入すべく、身体をレナードに預け、体重をかけてゆくことを求められていた。 「きみが言い出したことですが、できなければ……」 「やります……っ」  今でさえ、包帯の何ヶ所からか、血が滲んでいた。そんなレナードに無茶をさせるわけにはいかない。だが義務感とは裏腹に、渇望と好奇心、そして、ひとつになりたいと望む衝動が、オデルを突き動かした。何をどうするかは、座学と本で、ちゃんとわかっている。実行に移せばいいだけだったが、快楽に溺れかけたにもかかわらず、行為への躊躇に膝が震えた。 「きみはいつも美しい決断をしますね……こんな時に、こんなことを問うのはルール違反でしょうが……バレット卿とは、こうしたことを、しなかったのですか?」 「っ……」  答えるのも恥ずかしくて、耳が染まるのを自覚しながら、オデルは必死に首を横に振った。初恋が、どれだけ淡いものだったかを、レナードを知って、初めて身を以て理解した。これほど強く何かを乗り越えようとする、自分をつくり替えてしまうかもしれない畏れに満ちた欲望の存在を、レナードに恋をしてみて、初めて知った。 「そうですか……すみません、少し、疑いました。許してください」 「っん」  レナードの言葉が、オデルの気性に火を灯す。唇をひと舐めすると、反り返るレナードを後蕾にあてがい、オデルはそのまま膝の力を抜こうと努めた。 「……っく、ぅ……っ、く……っ」 「オデル……ッ」  だが、試みるものの、初めてだからか、なかなか上手くいかない。どうしても腰を下ろせないまま、失敗を繰り返すだけの時が、長く経過した。オデルの様子に焦れても、責めようとしないレナードは、そっと食いしばったオデルの唇へ、優しくキスをした。数度の失敗を経て、今度はレナードが、オデルの頬を両手で柔らかく掴んだ。 「きみが……っ、好きです、オデル。こっちを向いて、顔を良く見せてください。挿れられなくても、手で、していただけるだけでも、私は大丈夫です。よく、がんばりました。何より、きみの気持ちが嬉しいから……今夜はカウントしなくても……」 「ゃ、っです……っ!」 「オデル?」 「嘘じゃありませんっ……、ぼくは、あなたが……っ、ぁ——あぁぁぁっ……っ!」  やにわに悲鳴を吸い込まれるようなキスをされ、レナードの両手がオデルの膝を掴んだのがわかった。その両手が、ぐい、と左右に強引に開かれる。弾みで先端がめり込み、浅くではあるが、オデルに挿入されてしまう。仰け反るオデルの背中を支えたレナードは、そのまま腰とうなじを引き寄せ、深くすくい上げるようにオデルにキスをした。 「ぅ……ぁむ……っ、ん、っんぁ……っ!」  意地悪で、嘘つきで、酷いやり方で、ぐずず、と中にレナードの先端がめり込んでしまう。さすがのオデルも驚きと未知の感覚へ突き落とされるようなやり方に反発し、レナードの肩を叩いたつもりだったが、力の抜けた仕草は、一撃にすらならなかった。その手を取られて、レナードが囁く。 「すみません……っ、強引にはしないと言ったのに……っ。きみがあまりに……っ、可愛らしくて……。虐めたく、なります……っ。さあ、第一段階は、クリアできました。次に、移りましょうか……?」 「っん、ふぁ、んっ……ぁ、ぁっ……ぁ……っ」  下から揺すり上げられて、オデルは初めての深い結びつきに崩折れそうになってしまう。 「きみの中は、素晴らしいです……っ、きつくて、私を、離しそうに、ない……っ」 「ぁ、レナー……ッ! ず、るいぃ……っ」  狡いやり方に文句を放つ前に、謀られた挿入に快楽を覚えてしまう。オデルは一瞬、抱いた憎しみに近い感情をつかまえようとしたが、それすら身体を重ねるスパイスにしかならず、濃くなりつつあるレナードの匂いに溺れていった。 「狡いのは、きみです、オデル……。煽るなと、言ったはず……っ」 「ぁっ、ぁあぁっ……!」  ぎち、と中で存在を主著するレナードが、オデルと身体を密着させ、抱きしめる。鼓動の速さを伝えられて、快楽に半ば呑まれかけたオデルが声を上げても、レナードは譲らなかった。 「ぅぁん……っ!」  オデル自身のものとは思えない、甘い悲鳴が飛び出てしまう。 「ふ……っ、オデル……ッ、きみ、は……っ」  互いの鼓動が駆け合いながら、速さを競い合っているようで、密着したまま中へ挿入されたレナードが、動きたがっているのがわかった。涙の浮かんだオデルの瞼や、眦に、レナードのくちづけが降り、呼気を吸い込むように食べられるような深いキスまでされる。まるで許可を求めるような、淡い謝罪を含んだ気がするそれらの仕草に、オデルは再び自分が蕩かされてゆくのを感じた。 「ぁっ、ぁっ……!」  やがて、片腕で腰を優しく抱いたレナードが、オデルの臍の下へと指を這わせ、呟く。 「だいたい、このあたりまで……入りますが、その、前に……っ」  その指を胸の飾りに着地させると、そっと揶揄するように、窺う様子で、捏ねたりを繰り返した。時に、潰され、ふに、と揺らされ、くにくにと形を変えさせられるたびに、まだ動いてもいない中が、びくびくと痙攣しそうになる。 「ぁ、んっ、は、ぁっ、こ、これ……っ」 「続けても……?」 「んっ」  オデルが頷くのを確認し、労わるような様子を見せながらも、確実に昂ぶってゆくよう、レナードに押し上げられてゆく。 「膝、が……っ」  もう、長くはもたないとオデルが訴えるが、レナードは暴走寸前のような衝動を堪えながら、愛撫を続けた。大切にされているのだと感じる身体を持て余し、どこかへ押し流されることが怖くて、レナードに縋るオデルの指に、指を絡めてキスをする。滑らかなオデルの身体を撫でるように味わい、色が濃くなりつつある両乳首を、物足りないわずかな力で転がし、労わるようにした。  意志を制御しようとするレナードに、オデルはこれ以上、どうやって進めばいいのか、半ば壊れた理性の前に、わからなくなる。勇気も覚悟も決意も、中途半端なまま、鎖骨に歯を立てられた拍子に、オデルは腰から崩れ落ちた。 「は……ぁ、っ! お、願……っ、レナード……ッ、ぼく、も、ぅ……っ」 「わかっています……恨んでくれて、かまいません……っ」 「ぇ……ぁ、あぁぁー……っ!」  喉笛に近い場所を甘噛みされただけなのに、全身をアルファに支配された気がして、強すぎる快楽に意識がブレて、腹の中にあるアルファの象徴がさらに増したことを嫌でも意識させられた。レナードに掴まったオデルは、その指先が傷を抉らないよう、爪を立てないよう、努めながら、壊れてゆくのを止められなかった。 「ふ……っ、きみ、は、熱い……っ、オデル……好き、です……っ」 「ぁっ、ぁあぁっ、ゆ、ゆす、たぁら、ぁっ……! ま、っまだぁ……っ」  なけなしの現状認識で、レナードを気遣おうとすると、レナードが下から突き上げるようにして、熱で泥濘んだ中をかき回される。 「準備が、まだ、ですか……っ? それとも、心構えが……? っでも、すみません、時間、切れのようです、オデル……っ」 「あぁっ!」  まるで意図して溺れさせるように、レナードはオデルの腰を両手でがつりと掴み、仰け反る姿態に二ヶ所だけ、仄かに色づいた乳首に吸い付いた。吐き出す言葉は最小限だが、睦み合うことが不思議と意思疎通になり、溺れまいと呼吸することさえ精一杯だったオデルが声を上げると、レナードは愛しいものを喰むように、あちこちにくちづけた。 「レナー……ッ! あ! あぅ! あんっ! あっぁ! ゃぁっ! ま、っだ……っ!」 「まだ? 足りない?」 「ゃっ、ち、が……っ! ひぅ! ひんっ! ひぁっ! ひっ、ぁぅ! ぁん……っ!」 「きみは、最高に……っ」  もう上り詰めるための階段は、とっくになくなっていた。背中に手を回したオデルがレナードの鎖骨のくぼみを指で掴むと、それを合図のように快い場所を擦り上げ、レナードの容赦ない抽挿がはじまる。短くオデルの名を呼ぶレナードの声が甘すぎて、鼓膜に届く前に蕩けてしまいそうだった。  レナードについてゆくことに必死になって、振り回される愉楽に沈みそうになりながら、オデルはまるで、嵐の夜の難破船の破片にでもしがみつくかのようだった。気づく頃には背中をベッドへ横たえ、仰向けで組み敷かれた状態で、レナードが最後の追い込みのように腰を打ち付け、オデルを貪っていた。 「あ、あ、あっ、あっ、あぁっ、あっあ、っぁあ、ぁ、あっ!」  意味のない言葉の羅列が、オデルの喉からひっきりなしに飛び出す。すべてが快楽へ変換されて、オデルがもがこうとした瞬間、それまで至れなかった高みへ向けて、押し流されるようにして脳裏が白く発光した。 「っぁー……っ!」  熱いものが奥で弾け、同時にオデルの茎を衝動が駆け上がる。  零れた熱が下腹を汚すのもかまわず、レナードの腰に両脚を巻きつけた。 「はぁ……っ、ぁ、んっ……! ぁっ、ぁあっ……っ!」  腹の奥に放出された白濁を、オデルの中へ塗り込めるように執拗に何度も動かされるのにさえ、感じてしまう。無意識のうちに中が脈動し、奥へ、さらに奥へとレナードを誘いはじめていた。 「ゃ、も……ぅ、っだ、め……っぁ!」 「オデル……ッ」 「ぁ、ってる……っ、ぃっ……て、ぁ、ぁっ……!」  つらいほど過剰な愉悦が腹の奥から全身へと急激に回り、オデルは自覚のないまま身をくねらせ、レナードを締め続けた。 「こ……れ、以上、っ擦っ……た、らっ……っ!」  飛んでしまう寸前の危機感が、ぼんやりオデルの脳裏を過る。同時に射精を終えたらしきレナードが壁を擦る仕草をやめたが、なおも逞しさを維持したままの熱杭を、再び抽挿させはじめるまでに、あまり時間はかからなかった。 「な……か、っ熱、ぃ……ぅ」 「もういちど……っ、オデル、ッ」 「ぁっ、ぁ……! ぁ、ぁあぁ……っ!」  催促と同時に動き出したレナードについてゆこうと、知らない間にオデルも腰を振っていた。互いに未知の灼熱を、打ち付け、揺さぶられるうちに、再びさらに高い崖の突端が見えてくる。その頃には、オデルもレナードと同等の、獣のようになっていた。 「はぁ……っ、んっ……、ぁっ、も……っ、ぃっ……っ!」 「私も、っいきそうです……っ」  呼吸が重なる寸前、レナードのキスを受けたオデルは、肉厚の舌を受け入れ、絡ませ合ったまま、落ちてゆこうとしていた。求めても満ちる気配のない餓えが、もどかしくオデルをも狂わせ、レナードを求めさせる。身体を重ね、鼓動が重なるのを肌で感知したオデルは、最後の砦が落ちるのを予知してしまっていた。 「んっ……ん、んぁ……っ、ぃっ……しょ……に……っ」 「ともに……っ、いきましょう——オデル……ッ」  どちらからともなく機会が重なり、鼓動が重なり、心が重なった気がした。オデルは頷く代わりにレナードの背中に片腕を回し、うなじを晒した。レナードの匂いに獣のそれが混じり、オデルの明け渡した処女地を熱い吐息が蹂躙する。マーキングのようにうなじの匂いをかいだあとで、レナードは育った牙で、ぶつりと音がするほどの深さまで、オデルのうなじに噛み付いた。 「っひ、ぁ——……っ」  刹那、未体験の異質な感覚がぞくぞくと背筋を走り、指先まで駆け抜けてゆく。  ビリビリと痺れるそれが、強すぎる快感だと気付く前に、オデルは何度目になるか最早わからない絶頂を、迎えていた。  やがて、レナードの牙が抜かれ、確認するように真新しい傷口を、舌が撫でてゆく。 「愛、して、います……愛して、います……オデル……ッ、私、の……っ」 「ぁ……」  ずきずきと鈍い痛みが、愉楽を追うように湧いてくる。その痛みと快楽に、オデルはこの交わりで、自分が再構成されたのを悟った。 「ぼく、も、あなたを……っ」  レナードの求愛に応えたつもりだったが、そこでオデルの記憶はぶつりと途絶えた。

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