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第26話 伴侶の石(*)
揺蕩っているうちに、ふと目覚めが訪れた。
「……?……」
ここがどこか、今がいつか、一瞬の空白を経ても思い出せなかったオデルは、少しだけ深呼吸した。部屋は薄明るく、夜の手前か、朝の手前だろう。暖かく心地よい眠りに、前日までの疲れが拭い去られた気がした。
(……前、日……?)
「オデル……?」
「……レナー……! っ……ぅ」
親しみを覚えるレナードの声に、手繰り寄せた昨夜の最後の記憶を思い出し、オデルは飛び起きようとして、呻いた。関節と筋肉が悲鳴を上げたせいだ。無茶な身体の使い方をして、全身が軋んだ。同時に、レナードの腕の中で眠りこけている事実に気づき、そっと負担をかけないよう、傍らの伴侶から身体を離し、見上げた。
鳶色の眸は、昨夜のように黄金色に尖った光彩をしていない。穏やかな色味でオデルを見つめていた。
「レナード……」
「……目覚めてよかった」
安堵のため息をついたレナードの腕の中、部屋を見渡すと、サイドテーブルの書類の横に、昨夜、使われた陶器製の小瓶が転がっていた。昨夜の出来事を丸々、疑うより先に、長くしなやかなレナードの指が伸びてきて、オデルの前髪を一房、つまんで梳いた。
「急に動かなくなるから、殺してしまったかと……。でも、脈があったので、眠っているだけだと気づきました。無理をさせ過ぎてしまいました。申し訳ないことをしました……」
「あの、昨夜、は……」
まだ頭が混乱していた。行為の途中で記憶が飛んでいる。意識がなくなり、落ちたのだ。レナードがナイトウェアを着た中に、ちゃんと包帯が巻かれているのがわかり、安堵する。同時に、うなじが引き攣れたようにズキズキした。これは噛まれた跡だろう。規則正しい楕円形がざらついているのを指先で確認したオデルは、レナードと昨夜、番ったことを、やっと事実として確認した。
「昨夜のきみは、とても素敵でした」
「っ……」
少し寝不足な顔ではあったが、レナードはしっかりしていた。
「早くきみと話をしたくて、起きるのを待っていたのです。触れたいのも我慢しました。褒めていただきたいです。私のオデル」
すり寄りぎみにオデルの方へ身を屈めてくるレナードを、慌ててオデルが押し止める。
「だ、っだめ、です……」
「どうして」
不本意な表情で文句を言われ、レナードを宥めようと、オデルは声を出したが、あまり騒ぎ過ぎたせいか、掠れて酷いありさまだった。
「お医者様に、無理はいけないと……」
「もう大丈夫です。そもそも傷は、みな浅い。命にかかわるようなものは、ありません。まあ、ちょっと痛むことも、たまにありますが……たまにです。それに、傷なら、きみも……」
うなじに刻印された噛み跡は、指でなぞると少しごつごつしていた。レナードは悪戯めいた顔で、オデルの左手に自分の左手を絡める。オデルは照れて、呟いた。
「これ……ですか? 正直、痛みはありますが、不思議と平気です。むしろ、調子がいいくらいで……」
伸ばされたレナードの左手の薬指には、オデルの指輪の石と対になる石が冠されている。オデルがもらった歪な半分は、元は帝国を築いた何世代か前の王よりレナードの家に下賜された宝玉を、熟練工の手によりふたつに分けたものだと聞いた。陛下の温情を割るなど、と眉を顰める者も多かったようだが、女王はレナードを祝福し、貴族に叙した。互いに半身を所有している石は、婚姻によりひとつになる。ゆえに、唯一無二の値打ちがある。
「きみを殺してしまいかねないので、しばらくはキスだけで我慢します。でも、欲しくなったら、いつでも私のところへ、ねだりにきてください。歓迎します」
「わかりました。では、ぼくも務めて前向きに」
仕事の話のような言い草に、オデルはレナードに会った婚姻前の頃を思い出し、思わず笑みが出てしまう。レナードの言葉選びはその気性がよく表れていて、決して慇懃無礼でも、遠慮しているわけでもないのだと、今ならよくわかる。
「オデル……」
レナードが、傍らのオデルに軽く触れるキスをする。
「足りませんか? ぼくはもう……」
「食べたりはしません。でも、医者がくる前に、きみをもう少し愛したいです」
「今……何時ですか?」
「まだ夜が明けたばかりです。朝食には早すぎる。回診は、いつも午後のお茶の時刻を過ぎた頃ですから、時間なら、たっぷりあります」
ねだるレナードの我が儘に、甘い気持ちが満ちる。静寂の中、まだ虫も、鳥も、鳴いていなかった。レナードの包帯は、きれいに取り替えられていた。オデルの身体も清拭され、シャツを着せられている。傷だらけのレナードに任せきりにしてしまったことを、オデルは悔いた。
「怒られませんか……?」
「約束はちゃんと守っています。それに、一緒に怒られていただけるのでしょう?」
「そうでした」
相槌と同時に、レナードを希求する気持ちが芽生えていることにオデルは驚き、認識を新たにした。レナードの無茶を押し止めようとすると、自然、オデルも我慢を強いられるのだ。昨夜の交わりはこの上なく甘美で、癖にならない方が難しかった。でも、自分の欲を優先させて、これ以上、レナードに痛い思いはさせたくない。
「オデル」
ぐるぐる考えているうちに、レナードはオデルの手を心臓の位置までもってゆき、着衣越しに接着させた。命の温もりが、手のひらからオデルへ伝わってくる。
「こうして心臓も動いている。大丈夫です。軽微な傷だったのですよ」
「う、嘘は……駄目です。お医者様が、出血しているからと……」
本音は、触れ合うことを止めたくない。が、昨夜はオデルがへばるぐらいのことを、したのだ。体調が万全だなどと言われても、とても信じられない。レナードをがっかりさせたくないし、レナードの好きにさせたい気持ちもあったが、あんな交わり方はさせられない、と昨夜の醜態をようやく思い出しはじめたオデルは、懇願した。
「身体に差し障ることは、しばらく我慢してください。ぼくも……我慢します」
「せっかくきみが、私のものになったのに……」
明らかにしょんぼりするレナードをどうにか励まそうと、オデルは言葉を継いだ。
「心配しているのです。何か……気を紛らわせるようなことがあれば、落ち着きますか? ぼくも、協力しますから」
愛し合う代わりに、寝物語はどうだろうか。レナードかオデルのどちらかが、毎回、寝落ちするので「ドレッサージュの君」の話を筋立てて最後まで聞いたことがなかった。しかし、オデルが提案を口にしようとする前に、レナードが切り出した。
「……昨夜の我々の交わりは、完璧でとても素敵でしたが、もっと楽しくできると思います」
「楽しく……?」
「はい。ですから私は、きみと模擬練習がしたいです」
「模擬練習……ですか?」
レナードの提案が上手く飲み込めずに、オデルが首を捻ると、レナードは嬉しそうな笑みを浮かべながら、呆気にとられるような提案をしてきた。
「きみはとても筋が良くて、昨夜はとても可愛らしかった。でも、きっと我々は、まだ初心者の域を出ていません。ですから練習しましょう。私のリハビリにも、なりますし」
「練習、って……その、具体的に、何を……?」
レナードの純粋そうな笑みに嫌な予感を覚えたオデルが確認すると、やがて意地の悪い笑みに変わったレナードが、提案する。
「たとえばですが……私に跨り、腰を振っておねだりしていただきたいです」
「っ……」
際どい戯言にオデルが絶句すると、カーテン越しに差し込む太陽光により、世界が鮮やかに色づきはじめた。オイルランプの灯はとうに消え、静寂を孕んでいる部屋に、鳥の囀りや虫の鳴き声が色を添え、朝が満ちはじめる。
「い、今、……っです、か……?」
深い愛情を受けていることがわかっているからこそ、オデルは動揺した。昨夜はフェロモンの影響を受けすぎていて、正気ではなかった上に、色々と重なっての行為だった。しかし、清らかな朝の陽光に包まれて、そんなことをしていいのだろうか。しかし、躊躇いがちなオデルへ、レナードはそっと尋ねた。
「昨夜は、楽しかったですか?」
「っ」
その言葉に記憶が蘇ると、耳が熱を帯びるのがわかった。オデルが唇を引き結んでいると、レナードが「オデル?」と片方の耳朶を優しく摘まみ、返答を促す。
「た、楽し……かった、です」
言葉にすることで、少しでもレナードに気持ちを伝えられるのなら、いくらでも尽くそう。与えることで生み出される歓びは、オデルの頑なさを変えるに十分だった。
「私も、とても楽しかったです。それに、きみはとてもいい匂いがする。食べてしまいたくなるのは、アルファの性というより、私の好みの問題かもしれません。それを確認したいのですが、嫌……でしたか?」
がっかりさせる返答への道を、先回りをして塞ぐレナードを、オデルは恨めしげに、少しだけ期待をかけた眼差しで睨んだ。
「レナードは……ずるいです」
「きみを愛しています、オデル」
そんな答え方をされたら、とても拒めないではないか。オデルは憎々しげにレナードを見上げたあとで、ふと、この状況を俯瞰し、はっとなった。レナードに催促された時以外に、進んで愛情を伝えようとしてこなかった自分の態度は、まったく間違っていた。これほど真摯に愛情を表現するレナードを、不安にさせているものがあるとしたら、オデルの態度だろう。
「ぼくも……あなたを愛しています、レナード」
「はい」
柔らかな笑みの下に抱えている葛藤を、努めて悟らせまいとするレナードに、オデルは言った。
「あなたがぼくを信じていないとしても、望むなら……」
少しだけ首を傾げたレナードに、オデルは伸び上がり、その唇にキスをした。
「ん……」
焦れったく甘い居心地の良さと座りの悪さが伴うまま、重ねるだけのキスをして、レナードの下唇をちゅっ、と吸う。かすかに開いた歯列の隙間に、深く合わさり、くちづける。まだ慣れないが、キスの仕方は、昨夜、レナードから何度も教わった。模擬練習でも何でも、愛を伝える手段は多い方がいいはずだ。
「服を」
ひとしきり唾液を交換し合ったあとで、オデルは上がった息のまま尋ねた。
「脱いだ方が、いいですか?」
「え……?」
視界がぼやけて、頬が上気しているのがわかる。心臓の音が頭蓋の中で反射し、とても煩い。
「ぼくが、肌を見せることで、あなたが……」
オデルはそっと起き上がると、シャツのボタンを指で解きながら、小さく囁いた。たぶん、生まれて初めて、アルファを誘惑しようとしている。レナードの要求を容れたら、オデルだって我慢がきかなくなってしまうのにだ。こんな真似、オメガがやることだからと笑われたら、と想像するだけで怖い。でも、レナードはきっと、そうはしないという確信があった。
「あなたの痛みが紛れるのなら……試してみたいです。レナード。あなたを愛して、いきたいから……」
レナードは、落ちてしまったオデルが目覚めるまで、待っていてくれるような人だ。昨夜はもっと、凄いことをした。羽織っていたシャツを、オデルは肩から落とす。白い肌には、レナードに付られた夥しい数の印が、朱く鬱血していた。それを晒すのは少し怖かったが、レナードに愛された跡を、隠したいとは思わなかった。
「好き、です、レナード……あなた、が……」
興奮のあまり、視界がぶれて、上手く口が回らない。オデルはレナードの膝に乗り、膝ですぐ近くまでいざり寄ると、そっと自分の胸に付いている飾りを摘んでみせた。
「オデル……っ?」
「好きです……」
鳶色の眸が見開かれるのを、頬を染めながら瞼を伏せ、感じる。
「ほしい、です……っ」
体重をレナードにかけすぎないように、慎重にバランスを取りながら、ぎこちなくオデルは動きはじめた。
「あなたが、レナード……、ん、好き、です……っ、ぁ、何、でも……っ、しま、す……から、レナー……ッ、ぁ、ぁっ……」
目の前でおこなわれている行為に、提案した側のレナードは唖然としていた。オデルは腰を、そっとレナードの下腹部に押し付け、ふらふらと振っては、押し引きを繰り返しはじめた。男性オメガであるオデルは、自身の欲情の証を隠せない。嘘をついても、すぐにわかってしまうから、これまで罪深いと思っていた面に、向き合おうとしてこなかった。
だが、今、オデルは変わろうとしていた。
「わか、ります、か……?」
「っ……」
体温が上昇し、鼓動が速さを増し、荒くなった呼吸を晒したまま、レナードの左手を取り、オデルは先ほどのレナードを真似て、自分の心臓の上に当ててみせた。
「ぼくの、ここが……欲しがって、います、レナード……あなた、が……好き、です……っ」
「オデル……」
「熱い、のは……っ、ぼくの、心です……っ。怖くて、震えているのでは、ありません……いえ、怖くもあります、でも、好き、です……っ。次は、どう、すれば、いい……っですか?」
導かれるままレナードの手がオデルの肌に接着する。さらりとしていたはずの肌が、汗ばんでいるのは、相手がレナードだからだ。
「あなたに、されるなら、ぼくは、自分が傷ついても、平気です……っ。経験値……っなら、こうして、カバーし、ます……だから」
見上げると、レナードの額にも汗が滲み、もがいてオデルから逃れようとするが、微かな抵抗にしかならなかった。
「好き……っ」
持て余していた鼓動も熱も情欲も、ぜんぶ見せよう。レナードの下腹に屹立を押し当てたオデルは、そのまま腰を振り、自慰でもするみたいに身体を揺らす。上下に、左右に、時に捏ねるように、この行為に、どんな名前が付いてしまうだろうかと恥じらいながら、レナードを前に、こみ上げてくる愉楽を伝えようとした。
「好き、です……っ、レナード……」
震える膝に、残っている力をありったけ込める。娼婦でも、こんなこと、するのだろうか。躊躇いを振り切り、オデルは昂りはじめた自身を、着衣越しにレナードへと押し付けたり離したりを繰り返す。
「ん……っ、は、ぁ……っ、レナー……ッ、ぜん、ぶ……っ」
布越しに屹立したオデルの先端からは、先走りが溢れ、布地を濡らしていた。
「あ、なた、に……っ、さしあげ、ます……ぜんぶ、レ、ナード……ッ」
途中で止める考えは、なかった。どころか、投げ出すことで、オデルは伝えようとした。覚悟も、決意も、矜持も、羞恥も、投げ出せるものは、ぜんぶ捨てて、やっと拾えるものがあることを、学んだからだ。
「ぁっ……こう、して……こう、し、て……っ」
何も持っていないオデルは、身を削ることでしかレナードに報いることができない。下肢は酷い熱で、いつしか息が上がり、震えていることにすら無意識なままだった。
「は……っ、んっ、ぁ、好き……っ、好き、です……っ、レナー、ド……ッぁ、ぁっ」
がくがくと身体が震えはじめ、均衡を保つのが難しくなり、体勢を崩しかけた時、レナードの腕がオデルを支えた。
「……続けて」
そっと言われて、オデルはレナードに従った。
「んっ、は、ぃ……っ」
乱れたオデルの吐息が、レナードの首筋にかかり、身じろぎされる。
そうして、レナードは堪えるように引き結んでいた唇を、やっとほどいた。
「本当に、きみは、私を……?」
いずれもう、達する近くまで上ってきたオデルの腰を抱いたレナードが、やっと上げた声は、なぜだか酷く昏いものだった。
「爵位を金で買う真似を……、いや、取り繕うのはやめます。きみを、金で買う真似をした私を、許していただけるのでしょうか……?」
その声に、オデルが瞼を上げると、まるで傷ついた子どものようなレナードの顔が視界に入ってきた。
「ただ、手に入れたかった……ローズブレイド公爵家のものは、すべて競売にかけられると聞きました。なら私が、買い支えることで、守れるものがあるのならと……奢っていた時期も、あったのです。でも、存在は買えても、心までは……」
「ぼくの心も、あなたのものです」
「きみは私を知らないから……」
「知ってます」
囁いたオデルの言葉に、レナードは納得しない表情で苦悶した。帝国随一の資産家で、金の威力を鉄槌のように振るえるのは、レナードぐらいなのにだ。こんな弱気な側面を持っていることを目の当たりにしたオデルは、ようやくレナードという人物のことが、すとんと腑に落ちた気がした。
「あなたが、ぼくを好きだと……知っています」
「それは誰でも知っていることです」
「でも」
「いいのです。無理をしないでも」
オデルの腰に回されたレナードの腕が、柔らかく脱力する。
「よくわかっているのです。ただ、きみのことになると、私は自分を制御がきかなくなる。時々……怖くなりますが、気を紛らわせてしまえば、取るに足らない小さなことだと……」
「っ帝国中の誰よりも、あなたがぼくを愛していると、知っているのは、ぼくだけだ……っ」
ぎゅ、とレナードのナイトウェアを握ったオデルは、額をレナードの額へ付けた。
「あなたにとって……取るに足らないことでも、ぼくには大事なことです」
「しかし、オデル……私は」
「ぼくを好きだと言って……くれる、あなたが、っぼくは、好き、です……。寂しいなら、寂しいと言ってください……っ。言われても、す、少しだけ……嬉しくなってしまうから……。だから、もっとあなたを好きに、なりたい、です……」
支離滅裂な告白に、腰に添えられていたレナードの手が、きゅっとオデルにしがみつくのがわかった。それだけで、心に温かいものが満ちる。
「好き、です……っ。信じて、もらえ、なくても……っ、ぼくは、あな、たが……っ」
オデルが再び腰を振りはじめると、レナードの下腹にあるものも、形になりつつあるのがわかった。快楽を追いはじめたオデルは、もう止まれないところまできてしまっていて、背中に回した腕でレナードを掻き抱くと、そのままいやらしい仕草で腰を揺らした。
「ぁ、あぁ……っ!」
やっと、一段上に進めると感じたオデルが、レナードを抱いた腕に力を込めると同時に、着衣越しのオデルの屹立に、レナードの指が触れた。その瞬間、じわりと熱が決壊し、鈴口から達した証拠の白濁が、オデルの衣服に広がった。
「ぁっ……ひ、ど……っ」
するならすると、先に言ってくれてもいいのに、と恨む間も無く、甘い情感が満ちる。布越しにレナードの逞しい屹立を感じたオデルが、恥ずかしさのあまりしがみ付く腕をそのままにしていると、レナードは返礼のつもりか、オデルの唇に静かにくちづけた。
「まったくきみは……本当に無茶をする……。これ以上は煽り過ぎです。きみが、……欲しくなってしまいます。虐めたく、なって、しまう……」
ため息とともに、レナードの声も震え、滲んでいた。上気した頬が愛おしくなる。唇に触れるレナードのキスは、どこか浮かれているように優しかった。
「欲しく……なるために、して、ます……っ」
「そんなことを言っていると、あとで泣いても知りませんよ……? オデル?」
子どものように、困惑と衝動を躊躇いがちに抱きながら、レナードはオデルの着衣を乱し、屹立の先端に、今度は直接、指で触れた。鈴口を指先で撫でられると、尾てい骨の辺りが震えて、内臓の奥の方から熱い何かが迫り上がってくる。それでも、オデルは自分の言ったことを、撤回しなかった。
「あなたにされるのなら、ぼくは……っ、いい、です……っん!」
くにくにと先端の口を広げるように指で抉られる。
「ぁっ! 先……っ、ひぅ……っ」
「これでも、きみは……?」
「は……っ、好、き……っ、レナード……ッ、好き……!」
達した直後の先端に、指をめり込ませるように抉られ、オデルはたまらず悶えた。快楽が強すぎて、衝撃を逃さないと自己が崩壊しそうだった。うなじだけでなく、身体全体が仄かに染まり、体温が上昇する。最も恥ずかしい場所をレナードに握られて、よがっている自分を認めるのは容易くなかったが、情けないほど淫らな姿なら、昨夜も散々、見せていた。
「触っ、て……っ、愛して、くださ……ぃ」
「オデル……」
情けないほどに淫らで、笑えないほどに真摯で、震えるほど畏れながら、それでも求めずにはいられない。レナードの好みの身体ではないかもしれないけれど、好きな気持ちだけは嘘じゃなかった。ここまで連れてきてくれたレナードに、感謝こそすれ、拒むことなど、どこを探しても見つからない。
「好き、です……っ、レ、ナード、ッ、レナー……ッ、好き、す、好き、好きです……っ」
「気持ち、いいですか……?」
「んっ、っはぃ……っ、ぃ、です……っ、ぁっ、また……っ、また、いっ……っ!」
溢れる声を零して達したオデルが、背中を弓なりにしならせた。先ほど排した精液で濡れた着衣が、もう冷えてきているのに、内側は、熱が高圧力のまま、足りないと主張する。腰を揺らすたびに甘い快楽に蝕まれ、恥ずかしくてたまらないのに、いつもなら決して言えないことを、訴えてしまう。
「あっ、い、ぃく……っ、また、っ、いっちゃ……っ!」
こんな風になるなんて、知らなかった。
こんなオデルを知っているのは、レナードだけだった。
「ああ、ほら……やっぱり……」
レナードが、オデルの放出した白濁を手に残したまま、そっとオデルの涙の滲んだ瞼にキスをする。
「きみが欲しくて、仕方がなくなってしまったじゃないですか……」
「ぼくを……欲しがってくれるのなら、光栄です」
「欲しい、ですよ? 本当に……きみだけが」
甘い衝動が、レナードとの間に満ちてゆく。大気が熱を帯びるように、オデルは快楽に蝕まれてゆく。
「ぼく、も……レナードが……欲しい、です……」
「そうやってすぐに……」
言いながらも、その声が甘く優しく蕩けてゆく。
気づくとオデルはレナードの腕にしっかりと抱かれ、耳元で熱のこもった言葉を囁かれていた。
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