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第19話・ターゲットを尾行せよ!⑦

「え、ええと、あのな、高間」 「浩太って呼んでくださいっす兄貴!」 「いや、だから兄貴はやめろ。同じ学年だろ」 「はいっす、兄貴!」 「いや、だから…」 全く分かっていない高間に俺は溜息をつきながら言葉を続ける。 「とりあえず怪我はないんだな?」 「大丈夫っす。あいつらに負けるほど弱くはないんで。いや、兄貴よりは弱いっすけど!」 「いや、そこは聞いてない。そして兄貴はやめろ、陽斗でいい」 「はい、陽斗の兄貴!!」 だから兄貴止めろっての! と怒鳴りたくなってしまったが、高間が余りにも嬉しそうにキラキラとした目で見つめてくるものだから、どうにも咎めるに咎められない。 助けを求めるように時雨と友成に視線を向けると、二人ともそれは楽しそうな笑顔で俺達の様子を見守っていた。 薄情な奴らだ。 絶対に、俺の置かれた状況を楽しんでいるに違いない。 「あー、ところで高間」 「浩太っす!」 「……浩太。お前は、何であんな危ない奴らと付き合ってたんだ?」 「それは……」 俺の問いかけに高間は少し視線を逸らして沈黙を保った後、ゆっくりと口を開いた。 「…俺は、強くなりたいんっす。いや、強くならないといけないんっす」 「強く?」 「強くならないと…なにも守れないっすから。…大切な存在も、自分の居場所も…」 そう告げて、軽く目を伏せる高間の姿を見て何か訳がありそうだなと思った俺は再び問いかける。 「何か事情がありそうだな。俺でよかったら話ぐらいは聞くぞ?」 「え…?」 「何か力になれる事があるかもしれないからな」 「いいんっすか?」 「よくなかったら言ったりはしないって。俺はこれでも生徒会長だし、生徒会は生徒が安心て楽しく学園に通えるようにする事こそ役目だと思っているからな」 勿論、高間の事情が分かれば斎藤先輩との仲直りの糸口を掴めるというのもあるけれど、高間の事を放っては置けないというのも本心だった。 高間もまた斎藤先輩と同じように悲しい目をしていたから。 「勿論、俺じゃ役不足だっていうなら無理強いはしないが」 「いえ、そんな事ないっす!陽斗の兄貴に聞いて貰えるなら…けど、本当に迷惑じゃないっすか?」 「ああ、それは大丈夫だ。このまま放って置く方が俺としては気になって仕方なくなるしな」 「…有り難うございます。なら、少しだけ話を聞いて貰ってもいいっすか?」 「ああ。けど、此処だとまたあいつらが来るかもしれないし、学園に戻るか。生徒会室でならゆっくり話せるしな」 そういった俺は立ち上がると、時雨の方へと視線を向けた。 「もう午後の授業も終わってる頃だよな。時雨、律樹に事の事情を説明しておいてくれ」 「了解。全部話していいのか?」 「うん?それは、全部話さないと分からないだろ、律樹の奴も」 「分かった。ならちゃんと全部説明しておくからな」 答える時雨が何処か意味深な笑みを浮かべている事に俺は怪訝気に首を傾げた。 何をそんな含みを入れているのだろうかと。 「まあ、いいか。浩太。立てるか?」 「大丈夫っす」 「よし、んじゃ取りあえず学園に戻りますか」 「ああ、そうだな」 俺の言葉を合図に俺達は揃って学園へと戻っていく。 午後の授業はやはり終わっており、部活に入っていない生徒達が帰路に就くのとは反対に俺達は校門を通って学園の中へと入って行く。 そして、生徒会室の扉の前に立った時、俺は瞬時に身の危険を感じて背筋を伸ばすと、ドアノブへと伸ばそうとしていた手を止めた。 駄目だ。 俺はこのまま生徒会室に入ってはいけない。 直感的にそう感じて。 俺の中の野生の勘というか第六感というか。 とにかくあらゆるものが危険信号を俺に送っている。 このまま生徒会室に入れば、間違いなく恐ろしい目に合うと。 今すぐこの場から立ち去るべきだと。

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