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第20話・ターゲットを尾行せよ!⑧

「陽斗?」 「どうしたんだ、陽斗?」 急に立ち止まったまま固まって動かない俺の様子を不思議に思った時雨達が首を傾げて問いかけてくる声を耳にして、俺はようやくはっと我に返ると時雨達の方へと向き直り早口に告げていた。 「す、少し急用を思い出したから、俺はそれを済ませてくるのでお前達は先に入っていてくれ!すぐに戻るから!」 それだけ言って、逃げるようにその場を立ち去ろうとした俺の背後から。 「ほう。そんなに急ぎの用なら俺達も手伝った方が良いのではないか?なあ、陽斗?」 「っっっ!!!?」 低く落ち着いた声が聞こえてくるのを耳にして、俺は息を飲みこむと動かそうとしていた足を止めて、ゆっくりゆっくりと後ろを振り返る。 そこには、生徒会の扉を開け放って腕を組みながらそれはそれは綺麗な笑みを浮かべて立っている律樹の姿があったりした。 「え…えと…あの、その…た、ただいまです。律樹さん…は、ははっ…」 「おかえり陽斗。で?急用とは何だ?さっきは付き合えなかったからな。そのお詫びに今度は俺も付き合おう。どこに行くんだ?」 「え…い、いや…それは、その、す、少し腹を壊したようなので…保健室に行こうかと…」 「それは大変だな。腹を壊しているなら、一人で行くのも辛いだろう。俺が連れて行ってやろう」 「い、いや、律樹さんの手を煩わせるなんて、そんな…そんな…」 「遠慮しなくていい。早く行くぞ、ほら」 「うおっ!?」 抵抗も虚しく律樹は俺の首根っこを掴んですたすたと歩き出す。 俺はなすすべなく引きずられるようにしながらも、時雨達の方へと視線を向けてSOSを求める言葉を送る。 「し、時雨!友成!ちょ、助けろ…!」 「すまんなぁ、陽斗。俺達には何もしてやれん」 「しっかり薬飲ませてもらって腹痛治して来いよー」 けれど二人は視線を逸らしてそんな言葉を放つだけで、引きづられていく俺を見送る体勢を取っていた。 「こんの薄情者どもおおおおおおお!!」 となれば俺はそんな叫び声をあげて引っ張られていくしかなく、生徒会室前の廊下には俺の叫び声が虚しく響いたのだった。 俺達の姿を見えなくなった後。 「え、えっと。陽斗の兄貴は、大丈夫なんっすか、あれ…?」 呆然と状況を見守っていた浩太が零した言葉に、時雨と友成が揃って頷き。 「ああ。大丈夫大丈夫。いつもの事だから、すぐに戻ってくるし、俺達は先に入って待っていようぜ」 「そうだな。高間。お前は茶ならどんな茶が好きだ?俺が淹れてやろう」 「は、はあ…それじゃあ、お邪魔するっす…」 なんていう会話を繰り広げた後、揃って生徒会室へと入って行ったという事があったとか。 一方、その頃俺達はというと。 「ちょっ…!律、律樹!行く、行くから引っ張るなって!首が締まる首が…!」 俺の必死の抗議の言葉に、漸く律樹は深い溜息をついた後、足を止めて手を放してくれる。 と言ってもそこはもう保健室の扉の前ではあったのだけれど。 漸く解放されて、呼吸を正す俺を気に掛ける事なく律樹はそのまま無言で扉を開けて、保健室の中へと入って行く。 その姿に俺は思わず苦笑しながら、これは完全に怒っているなと実感する。 それと同時に、先程の時雨の意味深な笑みと問いかけの意味が分かってしまった。 本当に俺の言葉通り全部、時雨は律樹に報告したのだろう。 黙っていてくれと言った左腕が斬られた事も全部。 全く時雨の奴め、後で覚えていろよ。 なんて心の中で毒づきながら俺も覚悟を決めて保健室の中へと足を踏み入れた。 保健室には保険医の姿はもう既になく、律樹が薬棚の前にたち、必要な薬品や包帯などを手早く選ぶとこちらへと戻って来る。 「律…あのな」 「座って左腕を見せろ。上着も脱いでな」 何か言おうとした俺の言葉を容赦なく遮って感情のこもらない声で告げてくる律樹の言葉に、俺は亀く溜息をついてから大人しく言われた通り、律樹の方に左腕を見せる態勢で椅子に座り上着を脱ぐ。 律樹が怒っているのは俺の事を心配してのことだと分かりすぎるぐらい分っているから。

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