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第21話・幼い日の約束①

「シャツも脱いだ方が良いか?」 「そうだな。その方が手当てしやすい」 「分かった」 頷いて俺は左側だけシャツも脱ごうとボタンをはずして左腕を引き抜こうとし。 「いっつ!!」 軽く声を上げて顔を顰める。 どうやら、シャツの袖の部分が斬り口に手が張り付いていたらしく、腕を抜くときに多少触ってしまったようだった。 「!大丈夫か?」 「平気平気。少し傷口に触っただけだからな。というか、そんなに切れてないと思っていたんだけど、結構深かったりする?」 俺の言葉に、保険医の椅子を借りて側に座った律樹は、露になった俺の左二の腕の傷口を真剣に確認する。 「お前が思う以上には深く切れているな。放って置いたら化膿して大変な事になるぐらいには」 「げっ、まじか…」 「……言いたいことは山ほどあるが、とりあえず手当てが先だ。少し痛むかもしれんが我慢しろよ」 「ああ、分かった」 頷く俺を見てから律樹は慣れた手つきで消毒液などや綿などを使って丁寧に手当てしてくれる。 「相変わらず手当てが上手いよなぁ、律は」 「…どこかの誰かさんが子供の頃からよく暴走してくれるからな。もう慣れた」 「ははは、いや、うん。反省はしてます」 「…本当かどうか怪しいものだな。薬を塗るからじっとしていろ少し染みるかもしれんぞ」 「ん。分かった」 言葉通り、律樹は傷口を塞ぐための薬をゆっくりと切り口へと塗り付けてきて、確かに薬は傷口に軽く染みたが、少しだけ息を飲むだけで我慢する。 後は、化膿止めを塗り付けたガーゼを傷口に当てて包帯を巻いてくれれば手当は完了する。 「どうだ?」 問われて、俺は軽く左腕を回してみる。 先程よりはずっと痛みもなくなって動かしやすくなっているのを実感して思わず笑みを浮かべた。 「おお、動かしやすくなってるし、痛みもぐっと治まってる。流石律だな!」 「そうか。と言ってもある薬で応急手当てしただけだからな。一応帰ってからちゃんと手当てしなおしてもらった方が良い」 「ああ。そうする。……なあ、律」 「何だ」 「御免。心配させて」 シャツと上着を身に纏い直しながら横を向いていた体を律樹と向かい合い態勢に変えてそう素直に謝ったのは、手当てした後はずっと俯いている律樹の姿を確認していたから。 その姿からきっと時雨からの連絡を受けてからはずっと心配してくれていたのが分かっていたから。 普段はあんな態度でも、俺に何かあった時にいつだって一番に心配してくれるのは律樹だと知っていたから。 いや、普段のあの態度だってあれが本当に律樹であり、俺達には心を許してくれているからの態度ではあるのだけれど。 俺の言葉に黙ったまま俯いていた律樹は、小さくゆっくりと口を開く。 「先に謝るな。馬鹿」 「…うん。そうだな。俺は馬鹿だな」 「本当に馬鹿だ、お前は。いつだって暴走して…すぐ危険な事に首を突っ込んで」 「うん」 「今日だって、この間の斎藤先輩の時だって無茶して心配ばかりかける」 「うん。御免な」 「言ってもどうせまた同じことを繰り返す癖に謝るな馬鹿」 そう言われてしまうと何も言う事はなくなってしまうんだがと、俺は微かに眉尻を下げる。 けれど、律樹に心配をかけたくないと思っている事は間違いなく本心ではあるんだ。 いつだって、律樹が俺の事を案じてくれているのは俺が一番解っているから。 だから、それでもつい感情が暴走して危ないと思えばなりふり構わず突っ込んでしまう自分の性格はどうにもそう簡単にはなおせなくて申し訳なく思っていたりもするんだ。 だって俺は今だってちゃんと覚えているから。 幼い時にした『約束』を。 『大丈夫だよ。俺は絶対に律君を1人にしたりしない。置いて行ったりしないから!』 そう言って、1人泣いていた律樹に笑顔で手を差し伸べた日の事を。

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