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第22話・幼い日の約束➁
あれは10年前。
俺達がまだ5歳の頃。
公園で1人泣いている律樹の姿を見つけて俺は駆け寄って行った。
「律君!見つけた!」
「うっ…ぐすっ…はる君…」
「どうしたの?律君、どうして泣いてるの?また誰かに虐められた?」
この頃の律樹は小柄でどこからどう見ても美少女にしか見えない、泣き虫男の子だった。
優しくて気が弱かったというのもあるけれど、律樹の銀色の髪も、菫色の瞳も、実は先祖返りで持って生まれた自然のもので。
けれど、子供達にはそれが理解できなかったというのもあって、外人の子だとか変な髪と瞳の色だとかと言ってよく揶揄われては虐めにあっていたんだ。
まあ、その中には実は律樹が余りにも可愛いから気になって、所謂好きだから虐めてしまうと言った奴もいたんだけれど。
とりあえずそういう奴らは俺が見つけては成敗してたんだけれど、この日は事情が違った。
「ううん…違うの…ぐすっ…。あの、ね…小太郎…小太郎が…ふえっ」
「小太郎が?小太郎がどうしたの?」
「小太郎が…うっ…お星さまになっちゃった…ずっと一緒にいた…大切なお友達だったのに…うっ、うぇぇぇんっ!!」
「っ…!そう、だったんだ。…それは辛かったね…悲しかったね…」
そう言って、俺はそっと再び号泣する律樹の頭を小さな手で撫でる。
小太郎と言うのは律樹が生まれる前から律樹の家で飼っていた柴犬の事で、律樹が生まれた頃にはもうお爺ちゃん犬だったらしいんだけれど、律樹の事を赤ちゃんの事から大好きでいてくれて大事に守ってきてくれた律樹にとっては大切な家族であり、俺以外の唯一の友達でもあったんだ。
でも、律樹が生まれた時には小太郎はすでに15年も生きていたから、とうとう寿命が来てしまったらしい。
それは仕方のない事だったのだろうし、20年も生きた小太郎は大往生だったし安らかに天寿を全うして幸せだったんだろうと思う。
けれど、それは子供の律樹にはまだ理解できるはずもなくて、ずっとそばにいた大切な友達が急にいなくなった悲しみに耐えられる筈もなかったんだ。
「うっ、ひっく…ひっく…小太郎…小太郎っ…」
「泣かないで律君。悲しいだろうけれど…泣いてたら小太郎も心配してちゃんとお星さまになって、生まれ変われなくなっちゃうよ?」
「うっ、でもぉ…ひっく、りつ…ひとりぼっちになっちゃたもん…」
「何言ってるんだよ。律君はひとりぼっちじゃないだろ!」
「ぐすっ…ひとりぼっちじゃない…?」
「俺がいるよ!俺が小太郎の分まで律君とずっと一緒にいてあげる!」
「はる君が…?本当に…?りつとずっと一緒にお友達でいてくれる?りつを置いて行ったりしない?」
涙に濡れた大きな瞳で不安げに見つめてくる律樹に、俺は満面の笑顔で大きく頷いて言い切る。
「うん。しない!律君は俺の大事な幼馴染みで友達だもん!」
「はる君……」
「大丈夫だよ。俺は絶対に律君を1人にしたりしない。置いて行ったりしないから!」
「絶対の、絶対、約束だからね…?りつ、ひとりぼっちはもういやだよ?」
「うん、約束!だから一緒にお家に帰ろう?律君のパパもママも律君の事心配してたよ?それに小太郎だって、律君がちゃんと見送ってあげないと寂しがっちゃうよ」
だから帰ろう?と笑顔で手を差し出す俺の姿を見て、律樹は何とか泣き止むとごしっと服の袖口で涙をぬぐってから俺の手を取る。
「うん。帰る…小太郎にちゃんとバイバイしなきゃ。…はる君も一緒に見送ってくれる…?小太郎はる君のことも大好きだったからきっと喜ぶ」
「勿論!俺も小太郎と遊ぶの大好きだったし、悲しいけど一緒に見送ってあげようね」
「…うん。有り難う。あのね、はる君…。絶対に約束だからね…はる君はこれからもずっとりつとお友達でにいてね…?りつの事置いて行かないでね…?」
「うん!」
躊躇いがちに告げてきゅっと縋る様に繋いでくる小さな手を俺ももう一度笑顔で頷きながらしっかりと繋いだんだ。
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