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第23話・幼い日の約束③
昔の事を思い出しながら、俺はじーっと律樹を見つめる。
「何だ?」
俺の視線の気が付いたのか、漸く顔を上げて怪訝そうな様子を見せる律樹に俺はにっと笑っていった。
「いやぁ。幼い時の律君は本当に可愛かったなーってさ」
「は?」
「自分の事りつ、とかいっちゃって俺の事もはる君はる君って、どこ行くにも必死にあと追いかけてきてたの可愛かったよなぁ」
「おい、やめろ。いつの話だ」
「だから幼い時の話。あの頃はそこら辺の女の子よりずっと可愛い美少女だったしな。それが今ではこんな男っぽいイケメンになっちゃってさ」
いや、未だって本当は十分綺麗ではあるんだけれどな。
男っぽくはあるけれど、中性的に美貌の持ち主だし、女装したら一番可愛いと噂になっているアイドルよりずっと可愛くて美人だとは思ってる。
「男なんだから、男っぽくなって何も悪い事はないだろ」
「そうなんだけどさー。俺の可愛い律君が」
「誰がお前の、だ。気持ちの悪い事を言うな。全く」
「ひでぇ。相変わらず容赦ないんだからな、律は」
「このまま説教されなかっただけでもありがたく思ってもらいたいところだが?」
まあ、確かにそれはそうだな。
と納得して俺は軽く頷く。
「という事は今回はお説教なしな感じ?」
「お前が帰って来るまではどういってやろうか色々と考えてはいたんだが、お前が先に謝って来たからな。どうにもタイミングを失った。もういい」
「やった、律。優しい!」
「次の回の時に三倍にしてやることにする」
「それは勘弁してください。全然優しくなかった」
「お前が無茶なことしなければ済む話だろう」
「それはそうなんだけどな。やらないという保証は全く出来ない」
「堂々と言うな馬鹿」
なんて掛け合いがいつも通りの調子を取り戻してきたことから、律樹もだいぶ落ち込んだ状態から立ち直ってきている事を実感して俺は内心ほっと安堵の息をつく。
「というかさ、お前が一緒にいれば問題ないだろ。お前がいる時は俺暴走してない事の方が多いし」
「………かと思ったんだ」
「え?なんだって?」
「……いや、何でもない。だがお前の言う通りだな。時雨達ばかりにお前の世話をさせるのも申し訳ないし、今度からは俺も共に行動しよう」
「世話言うな。という事はお前もあの擬態をする気になったのか」
「は?する訳がないだろう」
「ですよねー」
なんて会話をしていれば、律樹は全くというように溜息をついて立ち上がり、使った薬や包帯を纏めて薬棚に直していく。
その後ろ姿を何となく俺はぼんやりと眺めつつ、ゆっくりと口を開いた。
「なあ、律」
「何だ」
「俺は忘れてないからな」
「………………」
「約束、忘れてないから」
ゆっくりと静かに零した俺の言葉を耳にして、律樹がどんな心境でいるのかまでは流石にその表情が見れなければ分からない。
けれど、俺の言いたい事は確実に律樹に届いているという事だけははっきりと分かった。
暫くの間律樹は無言で薬棚の方を向いたまま、片付ける事に集中する様子を保っていたけれど、やがてゆっくりと静かに。
「…なら」
と言葉を放ってくる。
「ん?」
「…その言葉が本当なら」
「うん」
「俺に信じて欲しいのなら」
「うん」
「今度はもう少し自分を大切にしろ。…馬鹿」
「うん。分かった」
静かで淡々とはしていたけれど、どこか縋る様な、願うような切実さも込められた言葉に、俺はただ素直に頷いたのだった。
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