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第6話

休み時間、俺は1人、職員室にいた。 担任に志望校を変えたい旨を話す為。 2人と違う、自分の偏差値と大差のない、私立。 「まあ、お前の親御さんとも話さないとだけど、了解。にしても、どうした?張り切ってたろ?」 俺は苦笑いで済ませた。 暫くし、豊に呼び出された。 廊下の隅、 「樹、なんで志望校、変えたんだよ」 思わず、顔を伏せた。 たまに唇を見ては瞳を見ては、勝手にキュンキュンしていた自分が馬鹿みたいだ。 「樹」 豊が俺の肩に手を置いた。 咄嗟にその手を振り払った。 体が無意識に震えたから。 「樹?どうした?」 俺の顔を覗き込んでくる、大好きだったはずの豊の顔、今は背けたくなる。 「あっ!樹、いたー!探したよ!」 小走りに駆け寄ってくる涼太を見るなり、俺は豊を押しやり、その場を逃げた。 豊とも涼太とも話したくない。 顔すら見れない。 それからも涼太も豊も学校で俺に話しかけてくる。 卒業を間近に、2人を避けていたが、 「3人でさ、カラオケ行こっ、樹。豊も誘って」 気乗りはしなかったけど、集まるのはこれで最後、と、俺は了承した。 そして、土曜。 待ち合わせし、以前、3人で良く行ったカラオケBOXの一室にいる。 「樹、なに入れる?」 「樹、なに飲む?」 気を使ってくれているのか、2人がやたら聞いてくる。 俺を真ん中に左側に豊、右側に涼太がいる。 卒業したら、2人とは別の高校なんだし、と俺も気が楽だ。 「樹、いい香り。シャンプーなに使ってる?」 突然、隣の豊が俺の髪に顔を寄せ、尋ねてきた。 「すっげ、サラサラだし」 指で髪を掬われ、その瞬間、涼太が俺の肩を抱き、 「嗅いだり勝手に髪の毛、触ったり、やめてよ、変態」 ジェラシーを感じたのか涼太に引き寄せられる。 「変態ってなんだよ、失礼な」 「樹は純粋なんですー、下手に触ったりしないでくださいー、穢れちゃうからー」 「...まあ、それは認めるけど」 涼太に肩を抱かれたまま、固まった。 俺が純粋....? 「ほら、樹の好きな曲、入れといた!聞かせてよ、樹の美声」 満面の笑みで涼太からマイクを渡され、頭の中、クエスチョンマークを飛び散らせながら歌いきると2人から拍手された。 「やっぱ、樹の歌声、いいな」 「耳、塞いでてよ、豊」 「なんでだよ」 ....やっぱり、2人、仲良いんだな。 痴話喧嘩みたい。 3人でいるのに、俺の孤独は耐えないまま、カラオケは終了した。

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