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第28話
私服姿の涼太が笑顔で紙袋を掲げて、俺は放心した。
「樹が好きなお菓子がさ、届いたから。一緒、食べよ?」
一瞬、息を飲んだけど、俺の脇をすり抜け、涼太が部屋へと入りドアを閉めた。
「なに?本、読んでたの?」
「え、う、うん」
「ふーん、流行ってんのかな」
「え?」
涼太は栞を挟んでいた小説をどかし、テーブルの真ん中にクッキーの箱を置いた。
まだ子供の頃...小学校の頃に豊の家で食べて、上品な甘さに虜になった、高級な海外のクッキー。
「....涼太、覚えててくれたんだ、俺がそれ、好きなの...」
「うん!当たり前じゃん、樹が好きなものは全部、覚えてる」
キッチンに立つ俺を見上げ、涼太が微笑んだ。
「....紅茶でいい?」
「うん」
涼太の前に紅茶を注いだカップを置き、俺も飲みかけだった紅茶を小さく飲んだ。
「ほら、食べて食べて。樹の為にネットで探して注文したんだから」
「え、高かったでしょ...?」
「いいの、そんなの。樹が喜んでくれたら」
そう言うと、涼太はクッキーを一枚、手に取り、齧る。
「ほら、樹も食べて」
「う、うん....」
涼太に唆され、クッキーに手を伸ばす。
大好きだったクッキーだったのに...なんだろ、なんだか味がわからない。
「あー!」
突然、涼太が声を上げ、ビクッと体が跳ねた。
「樹も買ったんだ?あの映画のDVD」
「あ、う、うん」
クッキーを片手に這うようにデッキ近くに置いたままだったDVDを涼太が手に取り、パッケージの表や裏を何度も見てる。
「イマイチだったよねー」
えっ、と涼太を凝視したまま固まったが、涼太はクッキーを齧りながら続ける。
「映画館で観なくて正解だったかも、何気に高いし、映画館ってさ。DVDも言えばあげたのに」
ぷう、と涼太はDVDを見ながら口を膨らませ、ポイ、と近くに放り投げた。
「....あんなに観たがってたのに、涼太」
「うーん、予告編てさ、いい部分だけ、はしょってるよね、まんまと騙された」
そう笑い、涼太は再びクッキーを齧り紅茶を啜る。
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