29 / 154
第29話
どうしよう...。
動けない....。
昔もなんかこんな事があったような....。
「最近、なんかいい事あった?」
膝を抱え、満面の笑みで涼太が聞いてくる。
「え....ど、どうかな....」
「ふーん」
そうして、優雅だけどマイペースに、涼太はクッキーを食べたり、紅茶を飲んだり。
「....豊に謝られた」
「豊に?」
「....うん。傷つけてごめん、みたいな....」
「そっか、それで?」
突然、涼太が何処か悲愴な切ない表情で俺を見つめた。
「それで、て...別に...謝られただけ」
「....そっか。酷いよね、豊」
えっ、と再び、涼太に釘付けになった。
泣きそうな顔な涼太が口を開いた。
「豊には口止めされてたんだけどね、樹の代わりに抱かせて、て無理やり犯されたんだ....豊、俺が樹を好きなの知ってる癖に」
涼太は鼻を啜り、怒った表情になった。
....豊の話しと違う。
でも、涼太は泣いてるし...豊が説明を省いたのかな。
「嫌だった、ずっと。樹にも悪いし止めよう、て言ったのに...言うこと聞かないなら、ばら撒く、てハメ撮りされてたし....」
涼太は語尾になるにつれ、涙声になり、頬を伝う涙を拭い始めた。
「....そうだったんだ」
「俺にも謝って欲しい、豊....っ!」
慌てて、涼太の傍に移動し、ティッシュの箱を渡した。
「....ありがと、樹。樹だけが俺の味方だよ....ごめんね、樹」
俺は自然と首を横に振ってた。
勉強会のあの晩、涼太、ノリノリなように見えたけど....演技だったのかな。
「あ、もうすぐ夕飯....」
時計を見ると、そろそろ食堂に移動しなきゃいけない。
「....一緒、食べよ?樹」
ぐすん、と鼻を鳴らす涼太を断る術が見当たら無かった。
そんなとき。
ドアかノックされ、
「入るぞ、樹」
と、俊也の声がした。
ともだちにシェアしよう!