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第65話

部屋に入ったものの、なかなか誰も曲を入れようとしない、沈黙が続いた。 切り出したのは豊だった。 「....なんか、ごめんな、俺のせいで。気まずい感じだな」 「ホント、マジそれ!なんで、豊が来んだよ、有り得ない」 「....ねえ、豊」 「うん?」 話しかけてみたら、豊はきょとんとしてる。 「....言いづらいんだけど、その....涼太の写真とか、消してくれる?」 途端、豊は怪訝な目になった。 「涼太の写真?いつの?」 「え?だから」 「あー!なんかさ、歌わない!?せっかく、カラオケ来たんだしさー!」 涼太は話しを遮り、デンモクを手に取った。 「でも、涼太、消してもらった方が良くない?」 不思議と涼太の視線はデンモクに落ちたまま。返事はない。 .....それ程、辛い、て事なのかな。 「写真、て?なんの写真?涼太」 俊也が尋ねると、涼太は俯いたまま。 「....逃げんなよ、涼太」 俊也は続けると、ガン!と涼太はデンモクをテーブルに音を立て、投げるように置いた。 「うるさいんだよ!なにも知らない癖に!」 「涼太?」 「樹が悪いんだから!約束してたのに!」 「....約束?」 「話し逸らすなよ、涼太」 俊也も豊も冷静だが、涼太だけが違う。 「樹の信頼、取り戻す為には仕方なかったんだよ!」 「豊を騙したんだろ?樹には好きな奴がいる、て。クリスマスに豊は告るつもりで、それを知っててプレゼント選びにも付き合った」 「そうだね!それだと豊だけじゃなく、俺も悪者になるからさ!樹には悪いけど、ああ言うしか無かったの!」 俊也に向かって吠える涼太を唖然として見守った。 「ああ言うしか、て、....涼太、泣いてたじゃん、豊に強要されたとか口止めされてたとか色々....」 「あー、あれ、全部、嘘!」 から笑いする涼太に瞬きを繰り返す。 「あの涙は?」 「嘘泣きに決まってんじゃん」 ぶすくれた顔で涼太は開き直った。 「....俺まで騙したの、涼太」 涼太の強い視線が俺の目を見据える。 「樹がいけないんでしょ!?なんで思い出さないわけ!?」 「....ごめん」 そう謝った瞬間、何故か体が勝手に震えた。

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