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第85話
ふと、隣の豊を見ると、曲に合わせながら、たまに鼻歌を歌う横顔。
仄かな穏やかな笑顔を見つめた。
....豊は馬鹿がつくくらい真面目で。そんな豊に付け入り、俺は豊を騙した。
「涼太?どした?」
俺の視線に気づき、豊が丸い目で俺を向く。
「な、なんか眠くなってきたー!トイレも行きたいし!おやすみ、豊」
「え?うん。おやすみ、涼太」
慌てて、ヘッドフォンを外し、階段を駆け上がる。
一旦、トイレに入り、手を翳すと水が出る、センサー式の水道から冷たい水で顔を洗った。
そして、鏡の中の俺の顔を見上げた。
「....めっちゃ、だっさ。俺」
樹と俊也のように、俺は幸せになんてなれない。
豊どころか、俊也も樹まで騙した俺に資格なんてない。
あるのは天罰だけ。
その天罰は何故か、まだ来ないけど...。
みんなといると楽しくて、つい、笑顔になる。
楽しんじゃいけないのに、笑顔になっちゃ、いけないのに。
ふかふかな真っ白なタオルで顔を拭いた。
「....頑張って寝なきゃ」
そうして、俺はまた部屋に戻り、しばらくはベッドの隅に座り、窓からぼんやり夜空を見上げた。
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