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涼太side

涼太side. ぼんやりと手持ち花火を眺めてた。 綺麗だな、て見蕩れていたら、暫くしたら無情にも火が落ちて、儚い花火。 「ほら。涼太」 不意に豊が隣に座り、真新しい花火を渡してくれた。 「あ、ありがと」 豊のやってる花火の先に花火をくっ付け、火を貰う。 「お似合いだな、あの二人」 「うん...」 豊の穏やかな声に釣られ、少し離れた先で花火を楽しむ仲睦まじい二人を眺めた。 俺が変な策を練ったりしなければ、樹の隣の笑顔は豊だったのかもしれない...。 「....俺さ、生まれて初めて、好き、て言われたんだ」 豊の視線は花火にある。 「...誰に?」 「だから、お前に。演技だったとしてもさ、嬉しくて最低だよな」 ....ヤバい。 なんでだろ、心臓がうるさい。 「べ、別に。好き、て言われて嬉しくない奴なんていないだろ....て、待って、初めて、て言った...?今」 「うん、言った」 「嘘だ!有り得ない!」 「なんでだよ。ガチだし。手紙でなら二回かな、あったんだけど。直接、好き、て言われたのはさ、16年生きて、お前が初めて」 「....ごめんね」 樹とくっ付けたくないが為についた嘘。 二人が両思いだって知って、俺は当時、樹が好きだったから....。 今は? ふと湧いた疑問に困惑する。 コソッと隣の豊を盗み見したら、目が合った。 「そのブレスレット、いつも付けてるんだな」 左手首に揺れる小さな貝殻が付いたブレスレットに視線を逸らす。 「い、いいなあ、て見てたからだから...」 「そっか。ありがとう。付けてくれてて」 顔が熱い...。 暗いから少々顔が赤くてもバレないよね、手持ち花火の明かり程度じゃ。 「好きだよ。涼太」 時間が止まったかのような感覚の後、隣に座る豊を見た。 優しい穏やかな瞳に心臓が止まるかと思った。 そのとき、俺たちのいるコテージより少し下に、大輪の花火が打ち上がった。 「花火だ!」 樹の嬉しそうな声がする。 俺は豊と見つめ合ったままだ。

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