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俊也side

夏休みだってのに、昼間っからネクタイにスーツで食事だとか、ほんっと、嫌気さすし、辟易する。 「暑苦しい...」 以前、樹を連れて行った、一緒にディナーを嗜んだ坂口さんのところとはまた別な我が家の知り合いのフランス料理店でランチを摂りながら、遥斗たちと顔合わせだった。 遥斗の顔合わせに、兄の和斗までついてきていた。 まぁ、そうなるだろうと見据えてはいたけど。 食事が運ばれて来るより前に俺は話しを切り出した。 昔から...フランス料理のフルコースが大嫌いだから。 子供の頃はマナー、マナーを覚えたら覚えたで、フランス料理には何故か難しい話題が多く、それじゃフランス料理だってフルコースだって、あんまりじゃないか? シェフたちだって、努力に努力を費やし、鮮度も味も食材も秀逸で絶品だ。 なのに、嫌われる。 兄や弟はこのランチに参加してはないが、もし来ていても、二人も変わらず、無言を貫きながらただ淡々とフォークとナイフを使いこなし食べるだけだ。 会話はあるものの、子供たちは聞いてはおらず、美味しいのかどうかもわからないまま、確認を取り合うでもなく、乾いた無音のような食事の時間がただ経過するばかり。 「僕から少々、お話しがあります」 ナイフやフォークを置き、切り出した。 「どうしたの?俊也くん」 「私達に、かね?」 遥斗たちの両親だけでなく、遥斗、和斗だけでもない、父や母の視線も注がれながら 「この婚約を申し訳ありませんが、僕は受けるつもりはありません。遥斗くんにも父にも伝えたことです」 「....どういうことだね?」 「ですから僕は」 「俊也!」 慌てて父が声を被せてきた。 が、ここでめげるつもりもない。 「好きでもない相手を抱いて、子供を作ってその子を跡取りにする、それは誰にとっての幸せでしょう?僕には理解が出来ません。そして、僕は本当に好きな相手以外の子供は要りまん。恐らく、抱くことも難しい。 遥斗くんは僕と一緒になれば幸せなんでしょうか?遥斗くんは望んでもないのに」 「....それは」 遥斗のご両親が戸惑っていた...。 「ありがとう、俊也」 不意にそう囁かれた。 笑顔を浮かべている母の優しい眼差し....。 「...あなた。御父様が生きてらしたらなんて言うかしら。あの優しく勇敢で、オペには絶対の自信を持って、御自身の時間すら患者の為にと費やした。あの方の意思と思いやりに溢れた御父様だから、あなたの病院は大きくなったのよ、ここまで」 母の言う、御父様、は父の実父であり、俺の祖父だろう。 俺が少6の頃に病死した。 いつも笑顔が耐えず、思いやりや気品に満ち、音楽、特にクラシックやジャズ、書籍が好きだった祖父に俺は昔から懐いていた。 「....このような席の場で申し訳ありません。ですが、私もこれ以上、俊也、いえ、子供たちを苦しめたくない。あの子たちも本当に医者を目指しているなら、申し訳ないけれど、あなたの病院でなくてもいい。他にも病院がある。 あの子たちに自由に選ばせるわ」 テーブルの一点を睨みあげるだけの父の姿、そして凛と した美しさのある母の姿。 「行きましょう、俊也。無理にここでお腹を満たす必要もない」 視点を俺に移し、母さんが微笑み、俺も釣られるように微笑が浮かび、頷いた。 立ち上がる寸で母は遥斗と和斗に、 「あなたたちも自由になりなさい。今はわからないかもしれないけど、高校生活はね、一瞬なの。青春、てそういうものよ。気づいてからでは遅いし、今、無理をして結婚を決める必要もない。幸せになることを模索しなくちゃ勿体ないじゃない?一度きりだから人生、て」 遥斗や和斗は母から笑顔でそう言われ、二人とも返す術はなかった。 「では私たちはこちらで失礼致します」 立ち上がった母は会釈をし、颯爽とレストランの出口に向かう。 風に靡く母の髪を追うように俺はその後を歩きレストランを後にした。

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