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初めての樹の家
浴衣姿でタクシーに乗り、樹の実家に向かった。
母と一緒に菓子折りを見て回り、フルーツ大福を一箱持って。
試しに1つ頂いたけれど、フルーツも瑞々しく美味しかったから。
苺だけでなく、マスカットやメロンや桃、フルーツじゃなくプリンが入った物もある。
樹のご両親や妹さん、夏美ちゃんだったか、喜んで貰えたらいいけど。
樹の実家である一軒家。
インターフォンを鳴らし、数分後、扉が開くと、樹に似ている眼差しが見上げてきた。
黒髪のロングヘアの女の子。
無言だったが、唐突にキャー!と叫ばれて慄いた。
....浴衣姿が変だった?不審者と思われたのかな、と不安を感じる最中、その女の子はパタパタと小走りに引き返して行き、玄関先に置いていかれた。
と、束の間。
「お母さーん!ヤバいヤバいー!お兄ちゃんの彼氏、めっちゃイケメン!王子様みたいー!」
奇声...のような叫び声。
不意に。
先日のデートで樹が言っていた言葉を思い出す。
『だ、大丈夫だよ、俊也なら...あ、でも...夏美...妹、なんだけど....俊也を見たらうるさいかも』
『あ、そっか...。その、俊也、かっこいいし、透明感あって、なんか綺麗だし、でも、かっこいいし....そ、その、キャーキャー言うかも、だけど、その...気にしないで、ね...』
「もう!夏美ったら騒々しい!」
「だーってー!どうやって射止めたんだろうー!お兄ちゃん!」
しばらくして、
「えっ!?いらっしゃってるの!?」
「うん!」
パタパタと今度は樹のお母さんが息を切らしながら走ってきた。
「ごめんなさいね、騒々しいうえに、こんなところで待たせてしまって」
おろおろする、これまたどことなく樹に似たお母さんに謝れた。
「いえ、明るいご家庭ですね、これ、つまらない物ですが」
菓子折りを手渡した。
「あらあら、申し訳ないわね、ありがとう」
「夏美!うるさいよ!お兄ちゃんたち勉強中なんだけど!」
「勉強どころじゃないでしょー、お兄ちゃん!イケメンの彼氏さんが来てくれてるよ!浴衣姿がめっちゃイケてる!色っぽいのにかっこいい!」
見えないけれど、リビングだろうか、樹の怒鳴り声がする...。
複雑な面持ちの目の前のお母さんに思わず苦笑した。
「しっかりお兄ちゃんしてるんですね、樹くん」
意外だけど、ふと思い出した。
大切に優しく樹を抱いて、まどろんでいた最中。
『...抱いていい?』
あの懇願を思い出す。
切なそうな瞳で訴えられたが、突然、抱き締めてきた樹の誇張した下半身が俺にぶつかった。
どうしてか拒めなかった。
やっぱり大好きな樹だから、だろうけど。
オメガで、小さくて華奢で可愛くても、やっぱり樹も男なんだよな、そう感じた。
恥ずかしくて樹を見れない間も、樹の視線を真摯に感じて。
どんな俺の表情も見逃すまい、目に焼き付けるとばかりに俺を見つめている眼差しを見上げた。
体中で、俺と同じように、離したくない、て伝えているようで...。
樹以外なら絶対、嫌だけど、樹なら...
俺も拒まった体の力を抜き、樹を見つめ、体内に樹を感じ、受け入れた。
二人きりで海を漂っているみたいだった。
波とも似てる。
引いたり押したりする波。
手を離せば海に放り出されてしまいそうな、溺れてしまいそうな...
そうして、気がつけば樹にしがみついた。
...出来れば、豊や涼太に知られたくないけれど。
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