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第152話
家庭を顧みず、また本音を話すことのなかった父。
そんな父に何を話しても無駄、と無視してきた俺。
どっちもどっちだし、父さんは俺と祖父が似てる、と言ったけど、多分、父さんと俺も似てるんだろう。
だから、兄弟以上に俺とは険悪だったのかもしれない。
処置が終わり個室のベッドで横たわりぼんやりそんなことを考えた。
不意に病室がノックされ、看護師かと思いきや涙目の樹だった。
「....これ、遥斗くんが渡してくれ、て」
籠に入ったフルーツの盛り合わせ。
「....ご両親がお詫びに来たらしいんだけど、遥斗くんが引き止めた、て」
「....そっか」
横たわったまま笑顔で樹を見上げた。
「あと、お母さんにも会ったよ、俊也の。着替えだとか準備するから傍にいてあげて、て頼まれた。あと...右手は完治するから安心してね、て...」
樹の涙が頬を伝う。
「....なんで泣くんだ?完治する、てのに」
「わかんない...あの時の、あの惨事も、脳裏から離れない、けど、嬉しいのに涙が出る...」
「....それ、その辺に置いといて。おいで」
窓際に包帯が巻かれた右手がある為に左手を差し伸べると、樹が近づいてきて、俺の左手を握り、胸元に額を預けた。
「....びっくりした、凄く。だけど、完治するまで、右手が使えないでしょ?なるべく俺が俊也の右手になるから。お箸とか...難しいでしょ?」
「うん。でも、ほら、俺、ピアノで両手、使ってたから。案外、練習したら大丈夫かも。でも、ありがとう、樹」
樹が神妙な顔で頷き、その頬を指先でなぞる。
「...泣かせたくなかったのにな、ごめん」
「俊也が謝ることじゃないし。あとね、涼太や豊、気を使ってくれて、自販機があるロビーにいて...俊也のお母さん、涼太を知ってるみたいに感じた...気のせいかもしれないけど...」
困惑気味な樹に苦笑した。
「....実は涼太の父親の逮捕をさ、手伝ってくれたから母さん。だから」
「そう、だったんだ、だからか」
「....涼太は気づいてはなさそうだった?」
「うん。俊也のお母さん、涼太だけじゃなくて豊も俊也の友人として知ってる、ていつもありがとう、て...ただ、俺の勘というか、涼太へ向ける俊也のお母さんの眼差し、ていうか...」
「...そっか。良かった。涼太にはもうなるべく思い出して欲しくないから」
「うん...」
涼太が義父の子供を数回、妊娠してしまい中絶したことまでは樹は知らない。
豊は仕方ないにしても、樹は必ずショックを受けるだろう。樹には話す訳にはいかなかった。
病室がノックされ、看護師が夕飯を運んできた。
「良かったら、樹が食べさせてくれる?」
「うん、いいよ。...なんだか、少し照れくさいね」
箸を手にし、ようやく見れた樹の可愛い照れ笑いに安堵し、そして癒された。
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