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俊也の右手の手術は無事、成功した。 けれど秋のピアノのコンクールまでには完治はせず、二人で俊也もエントリーしていたコンクールの会場にいる。 まだ俊也の右手は包帯が巻いてある為に左手で俊也は俺の手を握り、俺もその手を握り返す。 俊也の横顔には怒りはなく柔らかい微笑があった。 その横顔はとても綺麗で思わず見蕩れてしまう。 俊也はやっぱり才能がありつつも相当な努力家なんだと入院中も感じた。 利き手の右手が使えないぶん、左手で箸を持つ練習、たまに左手で華麗な指先でテーブルを叩き、ピアノのレッスンをしていた。 嫌な顔、1つせず。 不意に俊也の横顔に見蕩れていた俺の視線に気づいた俊也がこちらを向き、微笑んだ。 「...残念だったね、俊也。俊也、あんなに頑張ってたのに...」 帰り際、手を繋いで歩きながらそう俊也に声をかけた。 「んー、でも、樹とコンクールが見れて。色んな人のピアノが聞けて勉強にもなったから」 俊也は俺を見下ろして笑顔でそう言った。 「色々、気づく、ううん、気づかされた。災難だったのかもだけど、いいきっかけになったのかも」 俺は...俊也のその純粋さにどう答えたらいいのかわからない。 きっと、俊也は和斗くんへの恨みもない。 初めて、俊也の手術を行った為に、俊也のお父さんに病室で会った。 以前、一度だけテレビで見たことはあって、緊張しながら頭を下げたけれど...。 「俊也の手術は問題なく無事に終わった。利き手なだけに不自由かと思うが」 喉の乾きを覚えながら白衣を着た俊也のお父さんを見上げ、言葉を待った。 「君は俊也と同じ高校の寮生だろう。よろしく頼んだよ」 仏頂面で素っ気なくそれだけ言うと踵を返し、看護師と共に病室を後にし、唖然としていると俊也はしばらくして苦笑した。 「ごめんね、樹。あの人、悪気はないんだけど、不器用なだけなんだ。俺もようやくさ、最近、気がついたんだけど」 涼太はたまに病室を訪れたけれど、 「ごめんね、俺が樹を演劇部に連れて行ったから...。そしたら遥斗も音楽室に来たりしなかったのに...」 神妙な面持ちな涼太に、俊也は笑った。 「勘違いしてるんじゃない?涼太。たまたま遥斗が現れたから和斗は遥斗に八つ当たりしただけ。狙いは俺だった。以前から音楽室で和斗とろくな事がなかったから」 そう言えば。 以前、俊也は音楽室で和斗くんにキスされた、と嘆いていた。 それ以外にも和斗くんと音楽室で何らかの確執があったのかもしれない...。 「どうする?まっすぐ寮に戻る?」 繋がれた左手。 ずっと、ううん、一生、この俊也の長い指先を持つ暖かい手のひらを握っていたい。 「うん。俊也の部屋、行きたい」 沢山の本とクラシックが流れる、俊也の部屋。優しい空間。 俺の眼差しで気づいたかな。 俊也に抱かれたい。俊也を抱きたい。 愛おしい俊也の眼差しに俺はいつも吸い込まれる。

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