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クリスマスの贈り物

「あのラブホテルにしようか悩んだんだけど、予約の仕方がイマイチわからなくて」 待ちに待った俊也と初めてのクリスマスの夜。 まだ俊也と付き合い始めた頃、一緒に食事や映画を観たり、備え付けの露天風呂を愉しんだ。 そして初めて俊也と結ばれたまるでVIPルームのような清潔感のあるラブホテルの一室のことだろう。 俊也は三ツ星ホテルのレストランのある下階にある一室を予約してくれていた。 別室を豊は涼太の為に予約しているみたい。 「スウィートルームの方が良かった?」 緊張しつつ窓一面の夜景に魅入っている俺の隣に立つ俊也が困惑気味に顔を覗き込んできた。 「う、ううん...」 充分に広くて綺麗な部屋なのに、ごくごく一般庶民な俺はスウィートルームとの違いがよくわからない。 「一緒にお風呂入る?その前に、さ」 「う、うん?」 「渡したい物があって...」 なんだろう、と窓越しの月明かりに照らされた俊也の綺麗な微笑に見蕩れた。 そ、と俊也が差し出した紺色のリングケースに目を奪われる。 同時に俺はとてつもなく鼓動が高まり、そして息が詰まり泣きそうにもなった。 感極まる、てこんな感じなのかな...。 「...前に話したよね?樹を抱いたら離したくなくなると思う、て。本当は俺が働き出して、自分のお金でプレゼントしたかったんだ。 けど、我慢出来そうもないから...」 切なそうに笑う俊也に釘付けになった。 「初めて出逢った日のこと、覚えてる?樹」 まだ満開とまではいかなかったけれど、桜が咲いていた。 俺は涼太や豊を避け続け、二人と高校の入学式で再会して戸惑ってしまい二人から逃げた。 今思えば、当時、なぜ二人を咎めなかったのか。 当時の俺はただの怖がりで弱虫だった。 だけど、俊也とその日、偶然ぶつかり出逢ったことで。 今よりも刺々しかった俊也と過ごす日々で俺は変われた。 きっと俊也も。 ううん...きっと俊也は変わったんじゃない。 俺と知り合う前の純粋ながら優しく穏やかで正義感のある俊也に戻れたんだろう。 泣きそうになりながら俊也と見つめ合う。 「...受け取らない訳がないじゃない?」 「樹が良ければだけど...春に番にならない? 俺は樹しか考えられない」 左手の薬指に指輪を嵌めて貰うよりも前に俺は俊也の胸に飛び込んだ。 そして爪先立ちし、優しい笑みを浮かべる俊也の唇にキスをした。 自分がこんなに積極的だったなんて...涼太や豊にも言われたけど、それは俊也だからだ。 そう確信にも似た感情がある。 「....桜が咲く頃が楽しみ」 唇を離し、そう俺は微笑むと俊也からのキスに瞼を閉じた。 後日。 涼太の左手の薬指にも指輪が光っていて、さりげなく示唆すると、 「....要らない、て言ったんだけど」 相変わらず真っ赤な顔でそっぽを向く涼太に吹き出しそうになる口元を抑えた。 「俊也にさ、樹に指輪をプレゼントするつもりだけど、豊もどう?てアドバイス受けて。樹のブレスレットみたく一生モンあげたかったから助かったよ、俊也」 「嬉しくないの?涼太。俺はめちゃくちゃ嬉しいけど」 にやにやしながら変わらず真っ赤な顔で視線を泳がせる涼太に尋ねてみた。 「....嬉しいに決まってるじゃん」 再び、口を尖らせてそっぽを向く涼太に、俺だけじゃない、豊や俊也も爆笑した。

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