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もし離れても~大学編~
青空に浮かぶ飛行機を見つめ続けた。
涼太や豊と共に空港で見上げた飛行機には俊也が乗っている。
「....行っちゃったね、俊也」
隣にいる切なさを含む涼太の声。
「うん...不思議な気持ち...」
遠ざかっていく飛行機を見つめたまま答えた。
「本当に良かったの?樹。て、今更遅いけどさ...」
「そりゃ...寂しいのは確か。でも俊也だから...」
進学を話し合う際、以前言ってくれたみたく俊也は一緒に海外への大学進学を提案してきてくれたけれど、俺は日本に残ることに決めたことを告げた。
「...なんで?だったら俺、日本の大学にするよ」
「ううん、駄目だよ。俊也の才能や夢、壊したくない」
俺と俊也は当時、暫し見つめ合い沈黙が続いた。
沈黙、て人や状況によってはあまり良くはないものだけど、ただただ丸い目をした俊也と見つめ合う。
不思議と俊也との沈黙すらも全く嫌なものじゃない。
「...俊也となら遠距離でも絶対に大丈夫。そう思うんだ」
俊也の優しい瞳を見つめたまま、婚約指輪の着いた左手を俊也の右手の甲に重ねた。
「....俺、めちゃくちゃ心配だけど、樹、置いてくの」
当たり前なのだけど戸惑う俊也がいた。
「涼太や豊もいるし、大丈夫。それにほら、俺、結構、体も成長したでしょ?昔にしたら」
一瞬の間の後、俊也がクス、と小さく笑い、俺の頭に優しく手のひらを置いた。
「確かによく豊に茶化されてたのに言われなくなったな」
高校生活ももう終わろうとしていた。
小柄で華奢だった俺も変わらず細身ではあるが身長は170にまで伸びた。
そして。
高二の春に俺たちは番になった。涼太と豊もそう。
「毎日...なんて最初にルール決めて守れなかったら悪いから容易く言えない。でも毎日でも、一日に何回でもメールや電話したい気持ちがあるのは忘れないで?寂しくなったり何かあったら必ず連絡して?」
「うん。俊也もね」
涼太や豊に見守られながら飛行場で俺と俊也は時間いっぱいまで会話をし、最後はきつく抱擁を交わしキスをした。
この日が来るまで二人でたくさんの思い出を作ろうと決め、映画館やコンサートや動物園、水族館、お弁当を持って公園に行ったりお花見や色んなところに行ったし涼太たちも誘い旅行に行ったりもした。
勿論、二人きりでも。
「にしても樹、大人だねえ。俺なら無理かも。行かないで、て樹の立場なら止めるかなあ」
「だな。意外だけど、それだけ樹も大人になった証拠なんだろうなあ。まあ、俊也なら浮気とか大丈夫そうだけど」
「俊也がいない間、樹が口説かれそうにならないよう監視しとかないとだなあ」
「監視ってw」
そうして。
涼太と同じ大学に入った俺。図らずも涼太の大学を聞き、豊も志願し同じ大学に入学したのだけどその訳は。
どうやら意外や意外、豊は結構、ヤキモチ焼きらしい。
涼太が他の誰かに取られやしないかと心配していた。
俺の成長と共にさほど体型は変わらなくなった涼太だが、確かに大学で演劇部に所属したからか、いや、豊と付き合い始めたからだろう。
表情が少し柔らかくなり普段はクールながら時折見せる無邪気な笑顔もあり美人とも可愛いとも取れる外見だ。
が、当の本人は、言い寄られても相変わらずのツン。
「なにか用?」
「時間ないんで」
更には聞こえなかったフリでシカトし素通りするくらいだから豊の心配は実際はご無用だ。
「久しぶり。元気してた?樹」
テレビ電話の向こうには以前と変わらず端正なイケメンながら、どことなく色香を増した俊也がいる。
画面越しの俊也の笑顔に、自然と俺も同じく笑顔になった。
「うん。でも、さっきメールくれたばかりだよ?電話も昨日したし、ほぼ毎日メールくれるでしょ?」
あ、そっか、とフランスの自宅にいる俊也がはにかんだ。
海外での生活や勉強、ピアノとで多忙だろうに毎日メールをくれ、電話も頻繁にしている。
俊也はしばしばフランスの色んな風景や食事、友人との写メ、本当に色んな世界を携帯を通して教えてくれる。
「本当いいところだから。樹も今度おいでよ。二人で観光もしたいかも」
「うん、行きたい!そのときは案内してね、俊也」
「もちろん。当たり前じゃん?」
互いに18歳になり大学に進学したが今も変わらず俊也は真面目で優しく頼もしい。
電話越しの俊也がもうすぐ長期の休暇で日本に戻ってくる。
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