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再会
「...ちょっとお母さん。少しはじっとしたら?」
リビングで忙しない母を見かねて高校生になった妹の夏美が眉を寄せた。
「だって仕方ないじゃないの!樹のフィアンセなんだもの...」
「楽しみだなあ!お土産もだけど目の保養になるー!俊也さん、めっちゃイケメンなんだもーん、王子様的な!」
思わず向かいのソファに座る夏美を睨みつけた。
「夏美には勇樹くんいるだろ」
勇樹くん、とは夏美の最近出来た同じ陸上部でありつつ同級生の彼氏だ。
「えーっ。勇樹もイケメンっちゃイケメンだけど俊也さんには劣りすぎだもん」
「それ勇樹くんに話しても大丈夫な情報?」
にや、と笑うと夏美がやめてやめてと慌てだした。
そして、チャイムが鳴り、玄関を開いた。
まるで夢か幻を見ているかのような感覚と高揚感。
俺に向けられた俊也の爽やかな笑顔と眼差し。
まるで磁石かのように俺の瞳も俊也から逸らせそうもない。
「久しぶり、樹。テレビ電話とかは抜きで」
「....久しぶり」
1年が経ったというのに俊也の爽やかで穏やかな笑顔はまるで暖かい日差しのようだ。
Vネックのアイボリーのセーターにグレーのコートを羽織り、細身の黒のデニム。
シンプルながらスタイルの良さも相まって気品すら感じた。
俺はというと、以前に比べたら夏美や涼太、雑誌などから多少はファッションを学んだと思う。
紺色の厚手のセーターとチェック柄のボトム。
父は仕事で不在ながら母と妹がいるため、キスや抱き着くことが出来ず、困惑気味に揺れる瞳で俊也を見つめていた。
不意に、ぎゅ、と俊也から腰を抱かれ、おまけに軽く持ち上げられた。
「会いたかった、樹。めちゃくちゃ会いたかった」
「俺も、俺もおんなじ!めちゃくちゃ会いたかった、俊也...」
そのまま俊也の首元に両腕を絡め瞼を閉じ自然とキスをした。
俊也の少し厚めの唇を確かめたくて、時折、その唇を吸うように角度を変えながら何度も唇を重ねた。
母や妹の存在すら忘れてしまった。
大好きな、大好きでたまらない俺のたった1人の番なのだから。
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