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第158話

俊也はたくさんのお土産を俺だけじゃなく、俺の家族にも渡したかったとソファに座り、母の淹れた紅茶を前に、ありがとうございます、と小さく会釈した。 テーブルにはたくさんのフランスのお土産が並び、夏美は目を輝かせた。 「うっわ...!すごーい!めちゃくちゃ可愛い!」 「フランスは雑貨が有名らしくて凄く迷ったんだけど。選んでたら楽しくなっちゃって。気に入って貰えたらいいんだけど」 そう言って隣に座る俊也がはにかんだ。 母にはフランスのサブレのセットとチョコの詰め合わせ。 「....まあ、本当に気を遣わせてしまって。お金もかかったでしょう」 「いえ、僕も選んでいて本当に楽しかったですし」 にこ、と母に俊也は微笑んだが、なんだか母の顔がほんのり赤いような...。 「ペンやハンドクリームやトートバッグとかは樹だけではなくお母さんたちにもいいな、てそれぞれ色やデザイン違いで3つずつ選んだから。仲良く選んでね、夏美ちゃん」 妹の夏美にまで優しくしてくれる隣の俊也の横顔に思わず微笑んだ。 「樹にはこれ」 ラッピングした小さめながらお洒落な箱を手渡された。 「....俺にだけ?」 「うん。スノードームのオブジェ。気に入ってくれたら嬉しい」 リボンを解き、思わず、息を飲んだ。 「....すっごい綺麗」 手のひらに乗せた小さなスノードームを覗くと俊也が顔を寄せてきた。 「この真ん中がノートルダム大聖堂。隣にあるのがエッフェル塔。この横がオペラ座、これが凱旋門、この横がサクレ・クール寺院、て言うんだ」 小さなスノードームの中、ひしめき合うパリの街並みはとても緻密なデザインでドームの所々には緑まであった。 「揺らすと、ほら、スノーフレイクが舞うよ?」 俊也の説明を頷いて聞いた。 「冬のパリをモチーフにしたんだろうね。...樹?」 「あ、ううん、ごめん、ありがとう。あまりに綺麗で見蕩れてた。大切にするね」 返事の代わりに互いに微笑む。 「本当にありがとうね、俊也くん」 「いえ。あ、あと、お父様はワインがお好きかどうかを尋ね忘れたのですが...勝手ながら向こうのワインなども郵送させて頂きました。お気に召して頂けたら嬉しいです」 「うわー!お父さんにまで!?」 夏美は浮かれっぱなしでハンドクリームやキーホルダー、ペン、トートバッグを見て、 「ヤバいー!どれも可愛い!迷うー!ハンドクリームもめっちゃいい香りだし保湿効果も良さげ!」 早速、ハンドクリームを開封し手のひらに塗った夏美が感嘆としつつ大騒ぎだ。 「あ、それでお母様にお話しが」 隣の俊也が斜め前に座る母に切り出した。 「遠距離になって寂しくもあるんですが、でも1つ深く痛感したことがあるんです」 真摯な眼差しに囚われ、やっぱりお母さん、顔が赤いような気がする...。 「本当ならすぐにでも籍を入れたいくらいです。ですがよく考えたのですが....僕は大学を卒業したら入籍したいと考えています」 母は俊也に見つめられたまま無言になってしまっている。 母の隣に座る夏美がお土産のお洒落なミントブルーのペンを片手に横目で二人を見た。 「勘違いしないで?お母さん。俊也さん、お母さんにプロポーズしてないから」 夏美のその一言に俺は思わず吹き出しそうになる口元を抑え、俊也は、え?と丸い目をした。 と同時にあからさまに母さんは狼狽えた。 「そ、そういう訳がないじゃないの!夏美ったら変なこと言わないの!」 隣の夏美がにやにやしながら、 「あーはいはい、お母さんもさすがに乙女になっちゃうよね、王子様に見つめ続けられたらさ」 母には悪いが吹き出さざるを得なかった。
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