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第2話
付き合ってからもう1年も経つのか、と黒板に書かれた日付を見て思う。もう、色恋にうつつを抜かしている場合ではなくなってきたな、とぼんやり思いつつも好きだという感情は薄れないのだから不思議だ。
「広海、夏祭り行こー」
「イヤイヤ、勉強だし」
あ、振られた。いや、まぁ広海が普通なのかな?去年は一緒に行ったし、今年も行けたらいいなと思ったけれど......俺と広海じゃ進む学部も必要な偏差値も違う。広海は広海のペースで頑張っていかないといけない、今更成績を落とすわけにはいかないのだろう。
いや、それは俺も同じか。でも、祭り行くけどね!例えぼっちでも!
(恋人がいるのに祭りでぼっち......)
い、妹と行くし!と誰に言っているのかわからない言い訳を心の中で並べた。虚しいだけだけど、何も考えないよりはずっといいと思った。
案外、一年経ってもちょっとくらい傷つくのだと知った。
『花 火』
祭り独特の雰囲気に今年の夏ももう終わるのか、と少しだけ感傷じみた気持ちになる。隣を歩く妹は友達と待ち合わせていうのだと言う。ぼっち確定かな?と思えば、その友達は俺も知っている後輩だった。うん、ぼっち回避。
薄暗い中、沢山の人とその人々を引き寄せるかのように所せましと並べられた夜店。たこ焼き、焼きそば、りんご飴。オーソドックスなものから、ご当地独特なものまで様々だが、イマイチお腹はすいていないし何か食べる気にはなれなかった。
(広海のやつ、今頃独りで勉強してんのかな)
こんな時に思い浮かぶのはやっぱり恋人の顔ばかり。一緒に来れれば良かったのに、と今更ながらにそう思う。
妹の友達と合流して、適当に花火までの時間を潰す。妹についての話で妹の友達こと山田さん(妹がつけたあだ名だけど)と盛り上がったり、山田さんの好きな人について問い詰めたり。ナカナカに面白くはあったけれど、やっぱりチラチラと浮かぶあの顔が気になって仕方なかった。
ちゅーから始まり、順序はおかしかったけれどそれでもちゃんと伝えた『好きだ』という言葉に見せてくれたあの表情は今でも鮮明に覚えていて。
照れたような、戸惑ったような、そんな表情をしていたアイツ。それでも耳まで赤く染めてかき消されてしまいそうなほど小さな声で『いいよ』と返してくれた。
あんな表情を見たのはあの時が初めてで、どうしようもないほどに惹かれたのが昨日のことのように思い出せる。
(それでも、受験は待ってくれんとよねぇ...)
分かってはいるのだ。俺も遊んでいる場合ではないことだって、広海が俺に構っていられるほど余裕が無いことも。
俺だって成績が少しずつ落ちてしまっている事実からは逃げられないし、広海だって精一杯なのも事実だ。それでも、それでも高校生、という時間をもう少しだけ楽しんでいたいと思うのはやっぱり間違いなのだろうか。
だって、受験が近づくってことは、高校生じゃなくなるってことは。
(広海と一緒に居れる時間も、あと少しってことになるやろ?)
次に広海と一緒に花火を見れるのはいつになるだろうか。同じ関係のままで、花火が見れる日はまた来るだろうか。
らしくないかもしれないけれど、たまにそうやって不安になる。現実はフィクションとは違う、甘くないのだから。いつか、傍にいられなく日だって来るだろう。たとえ、それがどんな形だったとしても、だ。それなら、いつだって後悔しないでいたい。
(終わりばかり見るのも変やけど...)
花火はもうすぐあがるのに、気持ちだけは薄暗いままで。嬉しそうな妹たちとは対照的に、心は真っ暗なままだった。
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