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第5話
二人はもつれるように立ち上がった。人は少なくなっていたし、酔っぱらいのあいだで抱きあいながら出ていく赤頭巾と猟師に注目する者はいなかった。クラウスは自分の宿へライナーをいざなおうとした。ところが相手は首をふり、クラウスの腕をひいていくではないか。
いまだに信じられない気分だった。ライナーがクラウスの想いにこたえてくれるなど。
だがこれは夢ではなかった。
扉が閉まったとたん、年上の男はクラウスを誘うように唇をよせ、口づけを求めてきた。クラウスは無我夢中で唇を重ねて吸い、舌を差し入れ、からませた。淫靡な水音が響かせながら、年上の男の口腔を愛撫する。
まるでどちらが先に屈服するかという戦いのようだったが、先にあきらめたのはライナーだった。クラウスは力の抜けたライナーを寝台に倒し、さらに口づけを重ね、手のひらで体をさすり、愛撫した。服の上からでもはっきりわかるくらい、おたがいの体は熱を持ち、はやくも堅くなっていた。ずっと思いをよせていた相手に求められているとわかって、クラウスは有頂天だった。裸に剥いたライナーの体に走る傷跡を丹念に唇で触れる。
「んっ、あっ……」
ライナーが呻いた。これが浄化ではなく純粋な愛の行為だということにクラウスは震えるような喜びをおぼえながら、ライナーの体をすこしずつ、舌と指先でひらいていく。秘所を唾液でぬらし、指でさぐろうとすると、ライナーは小声で「油を使え」といった。枕元には傷跡を乾燥させないための化粧油があった。広げた足のあいだに垂らし、指を秘所のでゆるゆるとかきまわす。焦らすようなクラウスの指の動きにライナーの背中が震え、熱い吐息を何度も漏らす。
「どうして……」
切れ切れの声がクラウスの耳に届いた。
「どうして俺なんだ、赤頭巾。どんな相手だって……選べたのに……」
「僕にもわからない」
クラウスの欲望ははちきれんばかりで、もう我慢できそうにない。
「だけどあなた以上に欲しい人は、この世にいない」
慎重に押し入ったライナーの中はクラウスを途方もない快楽で満たした。最初こそ自制していたが、クラウスがゆっくり動くたびにライナーが声をあげるようになると、もう止めることはできなかった。長いあいだ密かに愛していた男を抱いて、その晩クラウスは三度果てた。
そして翌朝、誰もいない部屋で目覚めた。
小鳥が窓の外で鳴いていた。冬のはじまりの冷気がクラウスの頬を刺す。ライナーは消え失せていた。荷物はすべて持ち出され、いつの間に宿を出たのか気づいた者もいなかった。いったいどこへ行ったのか、何の手がかりも残っていなかった。
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