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第4話

 文維(ぶんい)が自分のアパートに戻ると、煜瑾(いくきん)の姿は無かった。  一日中、(とう)家にいると言っていた煜瑾が、自分のレジデンスよりも近い文維のアパートに帰ると連絡してきてから1時間たっているというのに、リビングに気配はない。 「煜瑾?」  声を出してみるが、返事はない。  心配になった文維が寝室のドアを開けるのと、寝室の奥のバスルームから煜瑾が出てきたのは、ほとんど同時だった。 「あ、文維!」  自宅に居る時の可愛いベビーイエローのバスローブが無い煜瑾は、文維の水色のパイル地のバスローブを着ていた。  自分のバスローブを、少し余らせて着ている煜瑾があどけなく、可愛らしく、それでいてどこか艶めかしくて、文維はドキリとして足を止めた。 「どうしたのです、先に1人でお風呂に入るなんて、珍しいですね、煜瑾」  戸惑っている煜瑾に気付き、文維は優しく声を掛けながら近付いて、逃さぬようにギュッと抱きすくめた。 「あ、あの…」  文維は腕の中の煜瑾の、髪の香りを胸いっぱいに吸った。 「いい匂いだ」  うっとりと言う文維に、煜瑾は可憐にクスクス笑った。 「煜瑾?」 「だって、文維のバスルームのボディソープやシャンプーを使ったのですよ?文維と同じ香りのはずです」  煜瑾の口答えを、文維は口付けで封じた。 「ん…ぅん…」  甘く、深い口吻に、煜瑾も我慢できなくなり、文維の背中に腕を回した。 「…ぁ…ん」  巧みな文維に、煜瑾はもう抵抗が出来ずに、逞しい恋人の胸に身を任せた。 「ベッドに、行ってもいいですか?」  低く、熱っぽい声で文維が囁くと、煜瑾は震えた。そのまま流されそうになった煜瑾だったが、ハッとして身を引いた。 「だ、…ダメです…。文維は、お仕事で疲れているでしょう?お食事をして、お風呂に入って…、あ!」  文維を労わる煜瑾の口を塞いで、大人しくさせてから文維は言った。 「まず、煜瑾に癒して欲しいのですが?」 「文維…。そんな…」  恥ずかしくて困ってしまう煜瑾が、愛らしく、嬉しくて文維は、少し強引に煜瑾を抱き上げた。 「ま、待って下さい…、文維。私、1人でベッドに行けます…から…」  そう言う間に、煜瑾はお姫様抱っこのまま、ベッドに運ばれてしまい、そのままそっと寝かされた。 「何か、言いました?」 「もう…。文維はイジワルです…」  ほんのちょっと拗ねた態度を見せながらも、煜瑾は腕を伸ばして文維を引き寄せた。 「本当のイジワルを教えてあげましょうか?」 「知りません!」  煜瑾は、文維に軽いキスをして、非難を示し、続いて甘く、しっとりと深い口付けで許容を表した。

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