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第7話

煜瑾(いくきん)、今夜の夕食はどうしますか?」  今夜、文維(ぶんい)はアメリカ留学時代の友人が起業したとかでパーティーに誘われていた。文維は煜瑾も誘ったのだが、知らない人ばかりの集まりは煜瑾は苦手だったし、たまには煜瑾の知らないアメリカ時代に戻って思い出に浸るのも、文維のためになるのではないかと煜瑾は遠慮したのだ。 「1人では寂しいでしょう?小敏(しょうびん)でも誘いますか?うちの母も煜瑾に誘われたら喜びますよ」  幼い頃から1人で食事を摂ることなどしたことがなかった煜瑾のことが、文維は心配でならない。 「ふふふ。文維は私を子供扱いするのですか」 「君が大人なのは分かっていますよ」  そう言って、文維は煜瑾を抱き寄せ、濃厚なキスをした。それに必死に応えようとする煜瑾は、恋人の背に腕を伸ばした。 「あ…っ、ん…ん…」  過敏な煜瑾が全身を震わせると、文維は愛しくてこのまま手放したくないと思った。 「ぶ、文維…」  やっと身を翻し、煜瑾は文維の与える刺激的な行為から逃れた。 「文維…、パーティーに着ていくお洋服を決めましょう」 「…煜瑾…」  物足りなさそうな文維を残し、煜瑾は急いで文維のクローゼットに駆け寄った。カワイイ恋人を逃してしまい、文維は苦笑いを浮かべる。 「文維は、背が高くて、脚が長くて、タイトなスーツが似合うので…」  楽しそうにしていた煜瑾がハッと手を止めた。 「どうしました、煜瑾?私は何を着て行けばいいですか?」 「……」  煜瑾は困ったような顔をして文維を振り返った。 「文維がオシャレをして、カッコイイところが見られるのは嬉しいです。でも、それをみんなが見るなんて…」  複雑な気持ちの煜瑾を、文維は愛しくてならない。嫉妬という慣れない感情を持て余している煜瑾が、どれほど文維を愛してくれているのか実感できるのが堪らなく嬉しいのだ。 「ようやく私の気持ちを分かってくれますね」 「?」 「私も、煜瑾を1人にするたびに、こんなに美しく、賢く、魅力的な君を、みんなが注目すると思うとヤキモキします」  ニッとわらった文維が、なんだか可愛らしく見えて、煜瑾もふんわりと微笑む。 「今夜は宝山の家で、お兄さまとお食事します。そのまま、(とう)家に泊まりますから、文維はゆっくりしてきてくださいね」  謙虚で、聡明な恋人が、文維には嬉しい。  いつも2人でべったりとしているのも楽しい、だが、それぞれが相容れない世界があることで、2人になった時にいつまでも新鮮な気持ちでいられることを、煜瑾はちゃんと知っているのだ。 「そうですか…。お兄様とご一緒なら安心ですね」  文維はそう言って微笑み、クローゼットに近寄った。

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