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第9話
地元で人気の豆乳スープとお粥は、優木 の口にもよく合った。
「美味しいね」
向かい合って座る2人は目を合わした。そして満足そうな優木の顔を覗き込みながら、噛み締めるようにして小敏 が言うと、優木も深く頷いた。
「ボクが朝御飯を用意したの、嬉しい?」
甘えるように小首を傾げて訊ねる小敏に、完全に相好を崩してデレデレしながら優木は答えた。
「ああ。とっても嬉しいよ」
そんな分かりやすい年上の恋人を可愛いなどと思いながら、小敏はふと表情を変えた。
「どうした、シャオミン?」
「あのね、優木さん」
ちょっと不安げに、それでも無理に笑顔を作りながら小敏は優木に言った。
「来月、ボクの誕生日だって、知ってる?」
「え!聞いてない!」
驚いた優木はお粥をすくったスプーンを止めた。
「ん~、多分、初めて言う…かな?」
冗談めかして小敏は笑うが、優木は真剣な顔をして食事をやめた。
「優木さん?」
不思議に思った小敏が、優木の様子を窺うと、優木は思い詰めたような顔をしていた。
「どうしたの、優木さん?」
「…俺って…」
優木が重い口を開いた。
「俺ってシャオミンのことをなんにも知らないんだな…。シャオミンの恋人として、失格だ」
真剣な顔をして、本気で反省している優木の生真面目さに小敏は笑ってしまいそうになるが、その誠実さを尊敬さえしている小敏は目の前の中年男性が愛しくてたまらない。
「そんなことない。優木さんはボクのこといっぱい知ってるよ?」
小敏は優木の両手を握って、励ますように微笑んだ。
「すき焼きの生卵が苦手、とか、にゅう麺が好き、とか、ぬか漬けのキュウリが好き、とか、時々辛い韓国料理も食べるけど、基本、優木さんの作る和食が大好き…とか?」
明るく、素直な笑顔で言う小敏が可愛くて、優木もつられたように、やっと笑顔を浮かべる。
「ボクがどんな体位が好きで、どこが感じやすくて、どんなセックスが好きか、優木さんは全部知っているはずでしょ?」
「シャオミン!」
破廉恥なことでも、無邪気な笑顔で小敏が言うと、楽しく健全な行為に聞こえてしまう。
「もう前のボクじゃないよ。今のボクは、優木さんじゃなきゃ感じない。優木さんしか、ボクを気持ちよくすることが出来ないんだ」
小敏は椅子から立ち上がり、ポカンとしている優木に口付けた。
「そんな優木さんが、恋人失格なわけないじゃん」
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