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第12話
午後までたっぷりとベッドの中に居て、一緒にシャワーを浴び、食べかけの朝食を片付け、有り合わせの遅い昼食を済ませると、優木 と小敏 はリビングのソファに並んで座った。
もちろん、小敏の手には日本製のチョコスナックとポテトチップスが抱えられている。
「ねえ、優木さん…」
「ん?なんだ?」
スマホで、日本のニュースを見ながら優木が曖昧に返事をした。
それを、仕方ないな、と言う顔をして横目でチラ見して、小敏はポテトチップスの袋を開け、テレビを点けた。
「あ!」
いきなり現れた韓流アイドルのボーイズグループに、小敏はムッとしてチャンネルを変える。
「大丈夫。シャオミンの方がカワイイよ」
テレビ画面を観ようともせず、優木はポツリと言った。
「ま、当然だけどね」
小敏はちょっと拗ねたような、はにかむような、複雑な顔をして、それを誤魔化すようにポテトチップスを頬張った。
ふと、顔を上げた優木が口を開いた。
「旅に出ようか、2人きりで」
「え?」
驚いた小敏は、口いっぱいのポテトチップスを、食べ散らかしながら振り返った。
「うん…。シャオミンと2人きりで、南の島のリゾートとかどうかなあ」
「ハワイとか?」
小敏は目を輝かせて身を乗り出した。
しかし、無邪気な小敏とは違い、ちゃんとした社会人である優木は、有休の残りの日数や、ビザ取得の手続き、何より渡航費用や滞在費までを考えて、ちょっと二の足を踏む。
「…そ、そうだねえ。ハワイは…、その…、2人きりで過ごすには、賑やか過ぎるんじゃないかなあ」
焦りを隠せない優木に、その意味を察した小敏はニコリと笑った。
「じゃあ、海南 島にする?」
「?」
ハワイの代わりに小敏が出した地名に、優木はピンと来ずに、可愛い恋人の顔を覗き込む。それを汲み取り、訳知り顔で小敏が説明する。
「海南島はね、ハワイと緯度が同じで常夏 なんだよ」
「ふ~ん。常夏の島かあ~」
それを聞いて、優木はホッとしたのか、憧れの南の島のリゾートに思いを馳せた。そんな、人の良い優木の嬉しそうな顔に、小敏も胸がホッコリする。そして、もっと、もっと、誠実な恋人を喜ばせたくなる。
「うん。それと、海南島にはね、『南一天柱』とか『天涯海角 』とかの字が彫られた岩があるんだ。昔の2元札には、その『南一天柱』って掘られた岩がデザインされてたくらいに有名なんだよ」
「へ~」
そんなデザインの2元札はおろか、紙幣そのものを最近は見なくなった上海しか知らない優木はピンと来ない。
「『天涯海角』って岩の前で写真を撮るのが、昔は新婚旅行先として人気だったんだって」
「なんで?」
「『天涯海角』っていうのは、この世の果てっていう意味だよ。この世の果てまで2人は一緒って意味で、そこで永遠の愛を誓うんだよ」
小敏は優木に寄り添い、頬に軽いキスをした。
「でも、ボクたちの関係は、ずっと、ずっと、この世の果てよりも向こうまで続いていたらいいな」
夢見るような小敏に、優木はキッパリと言った。
「続いてる。ずっと…、もっと、ずっと遠くまで続いてるに決まってるじゃないか」
「優木さん!」
2人はそれからテーブルの上にカレンダーを拡げたり、小敏のタブレットで旅行会社やホテルを検索したり、一緒に新しい水着を買いに行く約束をしたりして、海南島への「新婚旅行」を夢見た。
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