14 / 172

第14話

宋暁(そう・しょう)じゃないか!」「シャイニー!」「久しぶりだね、シャイニー」  スラリとした長身に、中性的な美貌の持ち主である宋暁が艶然と微笑んだ。  その美貌に加え、才能あるダンサーとして、アメリカ留学時代はチャイナコミュニティ内だけでなく、多国籍な大学構内でも注目されていた宋暁である。  誰もが宋暁の歓心を引きたがり、宋暁とキャンパス内を闊歩することで多くの羨望の眼差しを向けられた。  言うなれば、宋暁は男女を問わず魅了する、学内のアイドルだったのだ。  そのアイドルが、唯一本気になった相手が、医学部の秀才・包文維(ほう・ぶんい)だった。  どちらも長身痩躯の圧倒的な美男で、2人が並んでいるとどんな学生も気後れして声さえ掛けられなかった。 「北京のファッションショーで一番人気だったんだって?」 「ニューヨークのファッションウィークでも引っ張りだこだったらしいね」 「イタリアのファッション雑誌の表紙を飾ったって?」 「パリで、君のポスターが街中に貼られたって聞いてるよ」  当時、宋暁に憧れていた者たちが、あの頃の気持ちに戻ったように、熱を入れて語り掛ける。  それを、当時以上に妖艶で魅惑的な笑みを浮かべた宋暁が、小さく頷いて応える。 「それで、今も我らがシャイニーと秀才のウィニーは付き合ってるのか?」  同窓の一言に、文維は緩く眉を寄せる。宋暁のことだ、何を言いだすか分からない。 「まさか!」  宋暁は、少しわざとらしいくらいに大きな声で否定した。そして、文維を見つめて意地悪く笑う。 「文維が僕なんかを相手にするはずがないよ。最近、婚約したばかりだっていうのにね」  宋暁の爆弾発言に、周囲は驚きを隠せない。 「おいおい、本当か、文維!」「婚約だって?聞いてないぞ」「おめでとう、ウィニー!」  意外な宋暁の態度に、文維はむしろ警戒する。文維最愛の唐煜瑾(とう・いくきん)とは違い、宋暁は人の心を弄んだり、裏切ったり、傷付けることを何とも思わないのだ。 「で、相手はだれなんだい、包文維?」  このパーティーの主催者である楚雷蒙(そ・らいもう)の言葉を、文維も無視できない。 「それは…」  文維が煜瑾を愛し、婚約したことは、恥ずべきことだとは思ってはいない。だが、このアメリカ帰りのセレブの中で、上海経済界で大きな影響力を持つ唐家の「深窓の王子」である煜瑾の名を出すことで、繊細で大人しい煜瑾に今後注目が集まり、騒がれることを文維は懸念していた。 「照れること無いよ、ウィニー。名家の出で、あれほどの美人で、才能も豊かで、性格までいいときてるのに、みんなに隠さなくても…」  皮肉めいた宋暁の口調に、文維は煜瑾を貶められる気がして苛立った。 「おいおい、そんな理想的なご令嬢が、まだこの上海に居たってか?」 「そんな夢みたいな婚約者、なんで紹介してくれないんだよ、ウィニー」 「どこのご令嬢だよ、文維。やっぱり、クリニックの患者かい?」  旧友たちの好奇心に、文維は不愉快になるが、決して顔には出さない。  けれど、何があろうとも、無垢で清純な煜瑾を好奇の目に晒すようなことはしたくなかった。 「ウソだよ」  急に宋暁が優しい笑顔を周囲に振りまいた。 「え?」  その場にいた全員が呆気にとられる。 「ウィニーには、今、みんなに秘密にしたいカワイイ恋人はいるけど、婚約は僕の嘘だよ。今の恋人と婚約したら、その時は文維がみんなに婚約発表するんじゃないかな」  そう言ってニッと笑った宋暁に、取り巻きたちはポーっとなった。それほど妖しい魅力の宋暁なのだ。 「と、いうわけで、今の僕はフリーなんだけど…」  意味ありげな視線を送る宋暁に、一斉に男たちは群がった。

ともだちにシェアしよう!