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第16話

「ウィニー…」  パーティーも落ち着き始めた頃、文維(ぶんい)は目立たないように、会場の隅の方でジンジャーエールを飲んでいた。  そこへ声を掛けてきたのは、やはり宋暁(そう・しょう)だった。 「君のファンたちは?」  宋暁に隙を見せまいと、警戒した様子で文維は言った。 「さあ。レイモンドがお金の話を始めたら、みんなそっちに夢中だよ」  皮肉っぽく笑い、宋暁はウェイターにカクテルのマンハッタンを2杯頼んだ。 「ウィニー、さっきはゴメンね」  珍しく宋暁が素直な声を出した。 「ん?」 「麗しの『王子様』との婚約のこと。…だって、僕も悔しかったんだ。大好きな文維を盗られるなんて、ね」  宋暁は思い入れたっぷりに文維を見つめ、その腕に触れた。 「分かってる…。文維があの『王子様』一筋だってことは。だから、これからは2人の幸せを祈ってるよ。さっきので、気は済んだしね」  そう言って宋暁は相変わらず妖艶に微笑んだ。 「さあ、仲直りにカクテルで乾杯しよう!」  ウェイターが運んできた飲物を宋暁は受け取り、1つを文維に手渡した。 「ああ、結局は私たちを庇ってくれたしね。お礼を言うよ」  文維は手にしたカクテルを軽く持ち上げ、宋暁のグラスと合わせた。チンと澄んだ音がして、2人は微笑み、アメリカ時代を思い出しながらマンハッタンを口にした。 ***  夕食後、中国の古典美術にも関心があるベッキオ師に、麗しの唐兄弟が代々の唐家のコレクションを紹介していた時だった。 「あ、ゴメンなさい…」  煜瑾(いくきん)はスマホを見て、そこに来たチャットメールの差出人の名前に頬を染めた。  それは、最愛の「婚約者」からのメッセージだった。  兄と恩師から少し離れたところでメールを開いた煜瑾は顔色を変えた。 「どうしたのかね、煜瑾?」  心配したベッキオ師が愛弟子に声を掛ける。 「あ、あの…。ベッキオ先生、お兄さま、ゴメンなさい。文維がパーティーで気分が悪くなったらしいのです。私に、帰って来て欲しいと…」  すでに、心ここにあらずと言った雰囲気で、煜瑾は落ち着きを無くしていた。一刻も早く、文維の傍に戻りたいのだ。 「…仕方ない。(おう)運転士に送らせよう」 「ありがとうございます、お兄さま」  怪訝な表情をしながらも、唐煜瓔(とう・いくえい)はそう言って(ぼう)執事に指示をした。  煜瑾は、兄に礼を述べ、ベッキオ師にはハグをして別れを告げた。 「文維のことが心配だね、煜瑾。しっかりと看病してあげなさい。愛情こそが、何よりの薬だよ」  よき理解者であるベッキオ師の言葉をしっかりと胸に受け止めて、煜瑾は素直に大きく頷いた。 「ベッキオ先生…、ありがとうございます」  それだけを言うと、煜瑾は身を翻して玄関を目指した。

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