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第22話
「あのね、玄紀 はCMに出てる、あの食品会社の御曹司なんだよ」
「え!そうなんだ~。国民的な人気サッカー選手で、イケメンで、しかも大きな会社の御曹司だなんて、スゴイな~」
小敏 の紹介に、真面目な優木 は素直に感心した。そんな優木に、小敏は愛情がこもった視線を送る。優木の「いい人」なところこそが、小敏の好きな所でもある。
「だから時々、会社の人気商品とか、新製品を試食させてもらえるんだよ」
小敏はそう言って、大皿に盛った料理を運び始めた。
「俺も、手伝うね」
すぐに立ちあがった優木に、出遅れた玄紀はハッとした。
〈大丈夫、大丈夫。あなたはお客さんだから、座っていて下さい〉
立ち上がろうとした玄紀に、ニコニコした人の良い笑顔で優木が言った。その心から親切そうな態度に、うっかり玄紀も微笑み返してしまった。
そんなやりとりをキッチンからチラリと横目で見て、小敏はクスリと笑った。
正直で、親切で、思いやりがあって、優しい優木は、見た目では損をしているかもしれないけれど、他人をイヤな気持ちにさせない。そんな優木が傍に居ると、なんとなく居心地がいいことを知ると、みんな優木に魅了されるのだ。
(ちょっと、煜瑾 に似てるかな?見た目は全然違うんだけど…)
もう一度笑った小敏に、隣に来た優木は不思議そうに訊ねた。
「どうかした?」
「ううん。なんか、優木さんと玄紀が仲良くなれそうで良かったな、って」
「そうかな?」
一口サイズにカットされた、冷凍のマンゴーを摘まんで、小敏は優木の口の中に1つ入れた。
「ううっ」
その冷たさが歯にしみたのか、優木は眉を寄せた。
それがおかしくて、小敏は声を上げて笑ってしまう。
キッチンでの優木と小敏の仲の良さそうなところを見せつけられて、玄紀は悔しいというよりも悲しくなってしまう。
小敏の事は、優木よりももっと、ずっと長く好きだ。小敏の事なら、きっと優木よりもたくさん知っている。それでも、小敏は玄紀ではなく、このずっと年上の、冴えない中年の日本人を選んだのだ。
(私に、何が足りないというんだろう…)
そんな風に考えて、玄紀は俯いてしまう。
こんなに長く、ずっと、ずっと小敏だけが好きなのに…。
「え?寝てるの、玄紀?」
小敏の声に、玄紀はハッと顔を上げた。
「起きてますよ!」
本当に小敏は分かってくれていない、と玄紀はちょっと腹立たしくなった。
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