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第43話

〈ホテル内のスパはいかがですか?お食事は毎食こちらでもお召し上がりいただけますが、全てのダイニングで朝食をお召し上がりいただけますし、近くの日本料理店からお取り寄せも出来ます〉  何か言いたそうな「特別ゲスト」に気付き、コンシェルジュは急いで言葉を続ける。 〈本館のトレーニングルームも無料でご利用いただけますし、三亜の図書館から貸し出しサービスもお手配いたします〉  必死な様子のコンシェルジュを同情したのか、優木が小敏に柔らかな物言いで説得する。 「俺は、シャオミンと一緒ならそれで充分だけどな」 「優木さん…」  最愛の人からそんな風な甘い言葉を囁かれては、さすがの小敏も大人しく引き下がった。 〈とにかく、今夜はここで海鮮料理の夕食を作らせてよね。明日の予定は今夜じっくり考えるから、またよろしく〉  やっと「特別ゲスト」のご機嫌を取り持つことができ、コンシェルジュはホッとしてヴィラからそそくさと出て行った。  2人きりになり、優木と小敏は顔を見合わせて笑った。 「この中を探検しよう!」  立っていた優木がそう言って小敏に手を差し出した。 「うん!行こう!」  すっかり機嫌が直ったのか、明るい笑顔で小敏は差し出された手を取り、立ち上がった。 「プライベートプールに併設のジャグジーには屋根があるんだって。あとで一緒に入ろうよ」 「よし、まずはそこから見に行こうか」  いつもはニコニコと穏やかに小敏の後を付いて行くような優木が、今日は珍しく若く我儘な恋人をリードする。  そんな優木が、小敏には嬉しい。 (ボクの誕生日だって、ちゃんと分かってくれてるんだ。だから、ちょっといつもと違う…)  特別な日を特別な人と過ごすことに、小敏はこの上なく満足だった。  リビングから大きな一枚ガラスの引き戸を開け、2人はヴィラのパティオに出た。すぐそこにプライベートプールがあるが、雨のせいで近寄りがたい。  その場から屋根のある渡り廊下に沿って進むと、柱と屋根だけの四阿がある。オシャレなビーチチェアとガラスのテーブルのある休憩室があり、その向こうには丸くて大きな浴槽があった。 「お湯、出るのか?」  優木がどこまで本気か分からない口調で、浴槽に近付きカランを捻った。 「ん~」 「ぬるい?プールサイドのジャグジーだからね~。日本のお風呂のようには…」  2人で浴槽の中を覗き込んでいたが、蛇口に手を伸ばした優木が声を上げた。 「うわっ!熱ぅ~」 「大丈夫、優木さん!」  優木が火傷でもしたかと小敏は慌てたが、さすがにそこまではいかなかったようだ。優木は手を振りながらも、楽しそうに笑っていた。 「シャオミンにはちょっと熱めかもしれないけど、気持ちよさそうだ」  優しく小敏を見守るように微笑みながら、優木は小敏の頬に手を伸ばし、そのまま引き寄せた。  自然に2人の唇は重なり、優しい触れ合いを繰り返していたが、それはいつしか熱を帯び、激しく貪るような口づけに変わっていった。 「ん…ん…」「ん…ぅ…ん」  息をするのももどかしく、言葉など必要とせず、2人は強く抱き合い、互いの体を弄り、浴槽に十分なお湯が溜まるまでの間、濃厚なキスを繰り返した。

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