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第44話【R18】

 まるで熱帯のスコールのように大粒の雨が、ヴィラに付属したプライベートプールの水面一面を覆い、耳を塞ぎたくなるような音が続いていた。  その隣にあるジャグジーの大きな湯船にゆったりと浸かる優木の上で、一糸まとわぬ破廉恥な姿で跨り、我を忘れて体内の優木(ゆうき)を味わう小敏(しょうびん)がいた。 「…っ…、ぅん…」  うっとりと目を閉じ、手足の長いバランスの良いスタイルを誇る全身を紅潮させ、小敏は自分の思うままに腰を捩り、優木を締め付け、快楽だけを追いかけていた。 「…っは…あ…、はぁ…」  優木は荒い息を繰り返し、緩く動いてはいるが、それが生殖を目的とする行為ではなく、ただ愛し合うものの儀式だと知っているかのような神聖な顔つきだ。 「……」「……」  2人の間に、言葉は必要では無かった。上から見下ろすようにして、小敏が指先まで美しい両手で優木の頬を包み込み、そのまま唇を重ねた。  互いに何を求めているのかが分かっていた。それを与え、受け止め、分かち合っているだけで、幸せだった。  ジャグジーの中で長く触れ合い、一度だけ2人して吐精し、満足すると、小敏は優木の手を取って起き上がらせ、抱き合うようにしてシャワーを浴び、お揃いのホテルのバスローブを羽織り、手を繋いでヴィラの寝室に戻った。 「わ~っ」  キングサイズのベッドに向かって小敏がダイブするのを優木は楽しそうに見守り、気が付いて冷蔵庫から缶ビールを2本取り出した。 「はい。お疲れ様」  からかうように言って、優木が缶を渡すと、小敏は笑いながらその手を引っ張ってベッドに引き入れた。 「優木さんこそ、お疲れ様でした。なんだか、じっくり時間を掛けて愛し合うのって、激しく動くよりセクシーだね」  小敏の単純な分析に優木は笑ってばかりだ。そして、それには何も言わずに優木は体勢を立て直し、ベッドの上の幾つもある枕やクッションを重ね、それを背もたれにすると、ようやくビールの缶を開け、美味しそうに一口飲んだ。 「ねえ、優木さん。ボク、お腹が空いたよ」  唐突に子供のようなことを言い出す小敏に、それでも優木は優しく、穏やかに微笑んでいる。小敏の誕生日である今日は、恋人が何を言おうと何もかも許すつもりなのだ。 「じゃあ、小敏のスーツケースに山ほど入ってるお菓子を取ってこようか」  優木がそう言って身を起こそうとした瞬間、小敏はハッとして慌てて起き上がった。 「いい!自分の分は自分で取って来る」 「そうか?」  不思議そうな顔をして見送る優木を背中に感じ、小敏はそそくさとリビングに置いたままのスーツケースを取りに走った。

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