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第46話
外は雨のせいで午後7時には暗くなり、専属のバトラーであるレオンが夕食の支度を始めた。
「でね、マンゴーアイスクリームがあったんだよ。それがとっても、美味しくてね。後で運んでもらうから、優木 さんも食べてね」
「それは楽しみだなあ」
ようやく遅い昼寝から目覚めた優木に、小敏 は楽しそうに、ついさっき1人で食べた軽食の話をしていた。優木の方もにこやかに話しを聞いてはいるが、寝起きのせいなのか、まだ寝たりないのか、ボンヤリとしていた。
「けど、シャオミンが楽しみにしていたバーベキューが出来て良かった」
そう言いながら、優木は、バーベキューを焼く慣れた手つきの若い料理人たちを見守っている。その視線に、ちょっと嫉妬を感じて、小敏は自分の存在をことさら主張するように、優木の腕にギュッと自分の両腕を絡ませた。
結局、台風とは言え、夜には少し風が止み、雨も小降りになったため、プライベートビーチの横に調理用のテントの用意をさせ、そこで炭火焼きのバーベキューを作らせることになった。小敏と優木はエアコンの効いたリビングでそれを眺めながら、美味しい夕食を楽しんでいた。
「ほら、こんなに大きなロブスターだよ」
伊勢海老が好きな優木のために、小敏は特大のロブスターを2匹も注文していた。半分にカットして焼いただけの香ばしいエビの香りが、優木の元気を引き出した。
「わあ、焼いただけなのに、甘くておいしいエビだなあ~」
ここのところ、ダイエットのつもりか食も細くなっていた優木だったが、潮風を感じながらのバーベキューには抗えなかったのか、珍しくパクパクと小敏に負けないほどに食べ始めた。
「美味しいね~。この白身魚も美味しいよ」
「ああ、この醤油はちょっと甘いんだな。あっさりしたバーベキューソースみたいで美味しいな」
次々と優木と小敏が好きな海鮮が焼かれていく。それらを、ただ居心地のいい場所で食べるだけの贅沢を楽しむ優木と小敏だ。
「そうだね。あ、優木さんは、野菜も食べる?」
「ああ、俺、トウモロコシ焼いたのを食べたいな」
「ボクもトウモロコシ大好き!」
久しぶりに食欲が旺盛になった優木が嬉しくて、小敏は先ほどからはしゃぎっぱなしだ。
〈ねえ、その魚と、貝をもっと焼いて。あと、トウモロコシも〉
〈はい〉
料理人に命じて、小敏は優木にアルコール度数が低めのスパークリングカクテルを勧める。
それを勧められるままに飲み干し、大いに食べ、優木もまた満足だった。
〈優木さま、そろそろよろしいですか?〉
〈はい。お願いします〉
レオンが、小敏ではなく優木に声を掛け、不思議そうにしている小敏をよそに、レオンは厳かな態度でワゴンを運んできた。
「わあ~!」
それは、優木が事前に頼んでおいた小敏の誕生日ケーキだった。
「お誕生日、おめでとう、シャオミン」
優しく、穏やかで、誠実な優木の笑顔に、小敏は涙腺が緩くなりそうだった。こんな風に、地味ではあるけれども心のこもった誕生日は生まれて初めてのような気がした。
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