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第47話
〈では、ロウソクに火を点 けさせていただきますね〉
レオンの言葉に小敏 は興奮して優木 の手を取った。
「さあ、シャオミン。願い事をしなさい」
「うん」
優木に言われて、小敏は目を閉じ、手を組んでこれ以上は無いほどに真剣に祈った。
(このまま、いつまでも、優木さんと幸せに過ごせますように…。いつまでも、優木さんがボクを好きでいてくれますように…)
閉じられた小敏の眦 から、綺麗な涙が一筋流れ落ちるのを、優木は黙って見詰めていた。
やがて、小敏が少し恥ずかしそうに眼を開けた。
「さあ、ケーキを切って、いただこうか」
優木が声を掛けると、バトラーのレオンが言葉を理解したというよりは、場の空気を読んで、ナイフとケーキ皿を差し出した。
〈お切り分けいたしましょうか?〉
〈うん。お願い〉
白い生クリームに、黄色いストライプが入った涼し気なケーキにナイフが入り、切り分けられた一切れが、主役である小敏に手渡された。
「ん~。甘酸っぱい匂い…レモンケーキかな?」
その悪戯っ子のようなキラキラした目を潤ませ、小敏は笑顔で優木を振り返った。
「そうだね、チョコと、抹茶とレモンケーキから選ぶことになってたんで…レモンにしたんだ」
「どうして?ボク、チョコも抹茶も好きだよ?」
無邪気な瞳をクルクルと動かし、不思議そうに小敏は優木の顔を覗き込んだ。そんな小敏に、なんとなく照れ臭そうに優木は重い口を開いた。
「何ていうか…その…。初恋は檸檬 の味っていうからさ」
「え?」
あまりに恥ずかしいセリフに、小敏も聞き間違えたかと思った。思わず曖昧な薄笑いを浮かべてしまう。
「ああ~、も~。つまり、俺にとってシャオミンは、初恋も同じだから…」
「優木さん…」
小敏は優木の誠実で、真っ直ぐな気持ちに感激して、胸が一杯になった。
「ありがとう、優木さん…。ボクのこと、そんな風に思ってもらえるなんて、本当に嬉しい」
「…うん」
優木もまた、小敏の思い詰めたように一途な瞳の色に胸が詰まってしまい、それ以上何も言えずに頷いた。
「さあ、ケーキを食べて」
「そうだね、ボクが食べないと、優木さんも食べられないよね」
そう明るく言って、小敏は大きな口を開けて、パクリとレモンケーキを食べた。
「うわ~美味しい~。甘酸っぱくて、香りがいい!さっぱりして、いくらでも食べられるよ」
はしゃぐ小敏に、レオンも微笑む。
〈お口に合いましたか?〉
〈そうだね、食べきれないから、良かったらみんなで食べてよ〉
レオンから優木の分のケーキを受け取りながらそう言って、それを小敏は自分の膝に置いた。
「優木さん、はい、あ~ん、して」
次に小敏は自分のフォークで優木のケーキを、彼の口へと運んだ。
「え?えぇっ?」
優木は、レオンや料理人たちの眼を気にするが、それでも、ニッコリ微笑む小敏のために、最後には恥ずかしそうに口を開けた。
「どお?」
「ん、美味しいね」
見つめ合い、微笑み合って、優木と小敏は人目も憚 らず、そのまま口づけした。
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