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第8話

 1ー8 遠い昔に出会った恋人  それは、本当のことだった。  たぶんあのままアナハイムの家にいれば僕は、一生、飼い殺される。  まともな結婚相手なんて探してももらえないし、もしかすればもっと酷い目にあっていたかもしれない。  あのアナハイム辺境伯とその家族なら僕のことを奴隷にして売り飛ばすぐらい平気でやりそうだし。  そんなことになるぐらいなら、僕は、ワイエス男爵のもとに行く方がいいと思ったんだ。  だって、彼は、僕のこと、きれいだって言ってくれた。  こんな地味な黒髪に黒い目の目立たない薄汚れた僕のことを抱き締めてくれた。  うん。  すごく驚いたけど。  だって、僕は、女の子の格好をしてるけど別に男が好きって訳じゃないし。  でも、今までにもアナハイム辺境伯の客の中には、僕のことをそういう目で見てくる人はいたけど、そういう連中とは男爵はなんとなく違うような気がしたんだ。  あのとき。  男爵に抱き締められてキスされたとき、僕は、嫌だって思うより先に、なんだか夢見てるような気がしていた。  まるで、遠い昔に出会った恋人に抱かれたような。  そんな気持ちがした。  ワイエス男爵は、獣人だけど不思議と怖くなんてなかったし。  それよりもなんかほんわかと暖かい気持ちがしたんだ。  これがどういう気持ちなのかは僕にもよくわからない。  けど、僕は、男爵が僕を望んでくれたと知ったとき、信じられない気持ちが強かったけど、少しだけ違っていたんだ。  ほんの少しだけ、嬉しかった。  この僕を、『灰かぶり』を望んでくれた人がいたと思ったら、僕は、なんだか嬉しくて。  だから、僕は、ワイエス男爵のもとに行くことにしたんだ。  もちろん、母様のためでもあったけどね。  でも、それだけじゃない。  ふと窓の外を眺めると今までの荒野とはうって変わって緑溢れる草原が広がっているのが見えた。  「うわっ!」  僕と母様は、その光景に息を飲んだ。  どこまでも続く緑の草原の中、ところどころに美しい白や黄色の花が群生している。  遠くには野生の地竜の群れがのんびりと草をはんでいるのが見えた。  さっきまで曇っていた空も明るい光がさし、青い空が広がっている。  

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