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第9話

 1ー9 僕たちはどこに向かってるの?  不安におののいていた僕の心にも光がさしてくるようだった。  そう。  僕は、あの人のことを信じるしかない。  あの人が例え悪魔と呼ばれていようとも。  僕は、ふと男爵にされた口づけを思い出していた。  あれは、僕の初めてのキスだ。  僕は、あのときの口づけの温もりを思い出しながらそっと自分の唇に指先で触れていた。  僕は、ほんとにどうしちゃったんだろう。  僕は、男なのに。  なのに。  あの人の花嫁になるんだ。  アナハイム辺境伯に話を聞かされた後、僕は、そっとアナハイムの屋敷に忍び込んで図書室で獣人について書かれている本を探してみた。  そこにあったのは『獣人の秘密』とかいう子供向けの本しかなかったけど僕は、それを黙って図書室から持ち出した。  その本によると獣人という種族は、とても愛情が強い生き物らしい。  なかでも番と呼ばれる存在は、彼らにとって特別な意味があった。  獣人は、番と呼ばれる伴侶を見つけると一生をその相手のために捧げる。  そして、番の死とともにその獣人も死ぬのだという。  まあ、子供向けの本だし。  ほんとかどうかは疑わしいけどな。  それより重要なのは、番同士には性別に関わりなく子供ができるといいうことだった。  マジか?  僕は、ぞっとしていた。  僕が子供を産む?  ありえない!  まあ。  僕は、ふぅっと溜め息をついた。  本によれば獣人たちでも番に出会うことができるものはごくまれなのだというし、まさか、人間の僕が獣人であるワイエス男爵の番なんてことはないだろう。  僕は、気分を変えるためにも窓から馬車の行くてに見える屋敷を見つめた。  番なんて、関係ないし。  僕は、ただ、母様と一緒に暮らしたいだけ。  男爵に嫁ぐのは、そのための手段にすぎない。  別に好きとか嫌いとかじゃない。  なのに。  なんでこんなに胸が高鳴るんだろう。  だけど、僕の胸の高鳴りは屋敷に近づくにつれて消えていった。  ワイエス男爵の屋敷だと僕が思ったのはボロボロの倒壊しそうな古いお化け屋敷みたいな家だった。  それに、いくら行っても集落どころか1軒の家すらないし。  僕の不安は、どんどんたかまっていった。  いったい、僕たちはどこに向かってるの?  

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