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第11話
1ー11 本当に来てくれるとは思わなかった。
僕は、自分の荷物を抱き締めると思いきって歩をすすめてその屋敷の扉の前へと近づいた。
立派な獅子の顔をしたノッカーがついていて僕は、それをノックした。
しばらくするとドアがぎぃっときしんだ音をたててゆっくりと開いた。
中から顔を出したのはあまり背の高くはない僕よりもさらに背が低い髭もじゃの盗賊みたいな目つきの厳しい男だった。
「誰だ?」
男に問われて僕は、一瞬言葉を失っていたが、はっとして答えた。
「あ、あの、僕、ルーシェ・アナハイム、です」
僕は、その髭もじゃの男に微笑みかけた。
「あの、ワイエス男爵は?」
「ああ」
男が不機嫌そうに頷いた。
「あんたがグールドの旦那の花嫁、か」
男は、品定めをするようにぶしつけに僕のことをじろじろとみつめるとふん、と鼻で笑う。
「えらくかわいいのがきたもんだな。グールドの旦那のもとに嫁ごうって女だから、わしはまたよっぽどの女傑かと思ってたんだが」
ほぇっ?
僕は、思わずきょとんとしてしまう。
この人、僕のこときいてないの?
僕は、なんと言えばいいのか悩んでしまったが、口を開いた。
「僕は」
「ルーシェ?ルーシェなのか?」
奥からゆったりとした部屋着姿のワイエス男爵が現れると僕とその髭もじゃの男の方へと足早に近づいてきた。
「ほんとに?きてくれたのか?」
何?
僕は、じぃっとワイエス男爵のことを上目使いに見つめる。
「あなたがそのようにアナハイム辺境伯にお話しされたんですよね?」
だから、僕は、ここにきたんだし。
何を、今さら言ってるの?
僕は、少しムッとしていた。
男爵は、僕がむくれているのを見ると突然、あわあわとし始める。
「いや、その」
ワイエス男爵が面白いぐらい取り乱しているのを僕は、じっとみていた。
なんか、えらく動揺している?
「ほんとに来てくれたんだな、ルーシェ」
ワイエス男爵が僕を見つめた。
あの、緑の瞳だ。
僕は、無言で彼の瞳を見つめていた。
ワイエス男爵が困った様子で告げた。
「本当に、来てくれるとは思わなかった」
はい?
僕は、信じられないような目で彼のことを見ていた。
マジですか?
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