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第12話

 1ー12 人の住めるところにしなくては!  僕は、ムカついていた。  何を言ってるの、この人は?  僕は、ワイエス男爵のことを睨み付けると男爵に訊ねた。  「もしかして僕を、その、奥さんにしたいというのは冗談かなんかだったんですか?」  「いや、違う!」  ワイエス男爵がはっきりと答えると、僕のことをじっと力強い目で見据えてきた。  「その、もし君が断れば、私は、無理矢理にでも君を拐ってくるつもりだった」  マジですか?  僕は、苦笑した。  誘拐って。  こわっ!  僕は、ひきつった笑顔を浮かべていた。  「えらく気にいってくださったんですね」  「当たり前だ!」  ワイエス男爵が声を大にして僕に告げる。  「君は、私の唯一の番なんだからな」  はい?  僕は、自分の耳を疑った。  なんて?  僕が呆然としているとワイエス男爵は、突然、僕のことをぎゅっと抱き締めて耳元で低い声で囁く。  「ありがとう。私の伴侶となることを受け入れてくれて」  「あ、の」  僕は、ぎゅうぎゅう抱かれて夢中で男爵に告げた。  「は、離してくださいっ!」  僕は、焦っていた。  だって、もう3日も僕は馬車に揺られていて、酷い匂いがしてる筈だから。  僕は、頬が熱くなるのを止められなかった。  「ああ、すまない、ルーシェ」  男爵が僕から体を離す。  「嬉しかったから、つい」  ワイエス男爵は、僕から離れるとぷいっと僕に背を向けた。  「ランクル、この2人を客間に通してくれ」  「わかった」  頷くと髭もじゃの男は、俺と母様に向かって顎をしゃくった。  「ついてきな」  屋敷の中へと歩き始めた男の後を僕と母様は、ついていった。  家の中に足を踏み入れると、ぎしぎしと床板のきしむ音が聞こえる。  マジ、大丈夫なの?  僕は、足先で探るようにしてゆっくりと床の上を歩いていく。  「はやくついてこい!」  ランクルが僕たちに命じる。  僕たちは、慌ててランクルの後を追った。  家の中は、薄暗くてなんだか陰気な感じだった。  どこもかしこも古くて、いたんでいるようだった。  マジでここに住んでるの?  これならアナハイム家の使用人の離れの方がきれいだったし。  ランクルは、ところどころ床が抜けて別の木材で補強されている階段をのぼって僕らを2階の客間へと案内してくれた。  僕と母様は、それぞれ別々の部屋へと通された。  薄暗い部屋に、僕は、そっと窓辺へと近づくと、かろうじてぶら下がっているカーテンを引っ張って開けた。  大きな窓から光が差し込んでくる。  「ほわっ!」  ぶわっと埃が舞い上がる。  まずは、掃除からだ!  僕は思っていた。  ここを人のすめる場所にしなくては!

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